「新型コロナウイルス専門家会議」を信じられなかった理由
「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」、いわゆる専門家会議が7月3日に廃止され、「新型コロナウイルス感染症対策分科会」が発足しました。
「専門家会議」が法的根拠を持たなかったことからこれを廃止し、あらためて「新型コロナ対応の特別措置法」に基づいて分科会として設置されたものです。「分科会」は政府の「新型インフルエンザ等対策有識者会議」の下に置かれる形になります。
専門家会議で低減された内容の検証されることなく、総括のようなものもなし。なし崩しで出来上がってしまった印象があります。
個人的には「なんだかなあ」という気持ちが強いです。限られた情報の中で頑張られたことは報道やTwitter、「専門家の会」のウェブサイト(note)の内容からも伺われたので直接的に批判は控えてきました。
事後的に叩くのもあまりしたくはない。けれど、やはりもやもやがあるので、この機会に書いてしまおうと。専門家会議を信じられなくなった理由は2つです。
リスクコミュニケーションの失敗
緊急事態宣言が出されるか出されないかといった時期に、満員電車の感染リスクについての話題が沸騰したことがあります。どう考えても三密の電車はリスクではないのか、止めなくてもいいのか、といった疑問が多く出されていました。
当時は電車の窓を開けるようにはなっていましたが、安全性は全くの不明。不安を抱えながら通勤で鉄道を利用する人が、当時、Twitterでの情報発信をしていた西浦博北大教授に、質問をする一幕がありました。厚生労働省クラスター対策班の中心人物として、そして政府の専門家会議にも名を連ねていた西浦先生の見解を、マスコミを通さずに直に聞けるとあって信頼は多大なものでした。
私が信頼していいのか分からなくなったのは、鉄道の安全性への返答でした。
どうして通勤電車はいいのでしょうか。全国民の疑問です。
— wild hiro (@wildhiro) April 8, 2020
いいはずないのですよ(他の屋内設定よりはマシかもしれなくても良いはずわ。。)時差出勤をまじで考えて下さい https://t.co/BnufwBtU69
— Hiroshi Nishiura (@nishiurah) April 8, 2020
上では通勤電車は、他の屋内よりはマシながらもよろしくないと仰っている。
そこで、経路不明の感染は通勤電車由来ではないかという質問をすると・・・
経路不明の感染は通勤電車ではないでしょうか?
50代以下の感染が多いのも働き盛りで通勤電車利用する世代と合致します。
通勤電車のリスクをメディアで正しく伝えて企業などにリスク回避を強く要請していただきたいです。
感染リスクに怯えながら電車で出勤せざるを得ない多くの人を助けてください。— チコ (@chico_chico39) April 8, 2020
可能性はなくはないのですが、1人ひとりのヒストリーをみると本当に濃厚接触がほとんどです。飲み屋とかお姉さんが横に座るところとかもそうですし、会話でも30分以上の対面の食事とかで。もちろん気を付けないといけませんし定量的でないのですが車内伝播は相当に運の悪い状況ではないかと思います。 https://t.co/kphAydLND7
— Hiroshi Nishiura (@nishiurah) April 8, 2020
ほとんどが濃厚接触であり、電車はそうではないだろうと言っている。そして車内での感染は相当に運が悪い状況だろうと推測されています。どっちやねん!というのが素直な感想でした。
ひと月前のハフポストの記事には、「条件が揃えば感染リスク」という記事も出ています。
もちろん2つの質問は前提が異なるので、捉え方によっては全く別の事柄への見解とも取れます。しかし、やはり根幹にある「公共交通機関」の安全性に対する見解は、個人的なものと会議のメンバーとしての立場で、異なるのではないかという疑念が湧いたのです。
相当運が悪くなければ感染しないなら、満員電車は「望ましくはないから、分散するほうがいい。しかし心配するようなものではない」となると思うのですよね。
相当な運の悪さも排除する=リスクをゼロにするとするなら、そりゃ現実問題として無理だろうと思うわけですよ。当時の接触8割減だって、感染経路のほとんどが濃厚接触だと分かっているなら、濃厚でない接触はまあいいんじゃないの?とすればいいんじゃないの?と思っていました。
その後の西浦先生のTweetも追いかけたのですが明確な答えはなし。
私が公共交通機関のリスクの説明で納得できたのは、京大の宮沢孝幸さんと藤井聡によるこの動画。
毀誉褒貶の激しいお二人ですが、リスクとゲインのバランスを考慮した合理的な説明で納得しています。
それはさておき、西浦先生のTweetが専門家を信頼できなくなった1つ目の理由です。2つ目は有志の会の広めた発熱4日ルールについてです。
コロナ専門家有志の会の4日間はおうちで
こちらの記事で詳しく書いていますが、コロナウイルス発熱後は4日は家で様子を見るということを広めてしまっていた。
持病がない64歳以下の方は、風邪の症状や37.5℃以上の発熱でも4日間はご自宅で、回復を待つようにしてください。
発熱4日ルールはないとする西村経済再生担当大臣の国会答弁により4日ルールが否定されると、専門家有志の会のサイトでは4月27日に出された改訂版では、「4日間はうちで」が削られていました。
「誤解を招く表現であった」として改定をするのは構わないのです。時期や状況によって変わります。しかし更新版で4日ルールを削ったのは優先すべき情報取捨の問題であるとしています。
それぞれの時点において有志の会として優先すべきと考える情報を、現実の状況を踏まえて、旧記事を引用しつつ、さらにわかりやすく伝え方を工夫したものです。
「4日間はうちで」なんてことは、3月の段階でも厚労省が否定しています。
現実問題として、保健所が4日間を目安に検査を絞ったということはおそらく事実でしょう。厚労省も検査体制が不十分であった事情は分かっているのでそれを暗によしていたとも思われます。
しかし原則論としては、厚労省は4日間は受診するなとは書いていません。専門家有志の会がわかりやすく伝えるつもりであれば、「4日間はうちで」は誤りだと広めるべきだったでしょう。
これが私が「専門家会議」や「専門家有志の会」を信じなくなった理由です。他にもありますが、情報の少ない時期のことなので仕方ないかなと思えることばかりなので、そこは問いません。
専門家を叩きたいのではなく、事実関係としてそういうことだ、ということです。必死で取り組んでいたことは分かっていますから、批判もしたくはない。しかし、いずれもリスクコミュニケーションを軽んじた結果なんですよね。「国民に生の声を直接伝えたい」という意気込みはありがたいところですが、「現実問題として言えないこと」もたくさんあるでしょう。だからこそ、コミュニケーションの専門家を通しての発言が望ましいでしょう。
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