「体温げて免疫力アップ!」説の怪しさ
健康情報を扱うサイトでは「体温げて免疫力アップ!」という記事をしばしば見かけます。
医師監修の記事で「体温が上がると免疫力がこれだけ上がる」と書かれていれば信じてしまいがち。しかし体温と免疫力の関係に医学的根拠がないことは多くの医師が指摘しています。
■果たして、免疫力と体温に関する医学論文は存在するのか??!!
後日、製薬会社の学術の方からのアポ入れがあり、面会日を楽しみに待っていました。さすが理系バリバリの学術の方、しょっぱなから◉「体温が1度下がると、免疫力が30パーセント下がる」との医学論文はありませんでした!!
製薬会社HPの「体温を上げて免疫力アップ」???なので電凸しましたレポート!!(五本木クリニック)
細菌やウイルスに感染すると発熱するのは、生体の防御的な機構です。また、低体温療法といって脳保護を主な目的に体温を32~34度に下げる治療を行うと感染症にかかりやすくなります。このあたりの事実が「体温を上げると免疫力がアップする」という話の元ネタではないかと推測します。しかし、普通の生活をしている人の平熱を上げて免疫力がアップするかどうか、ましてや健康になれるかどうかは別の問題です。「体温を上げると免疫力がアップして健康になる」という話には、現時点では、医学的根拠はありません。
「体温を上げて免疫力アップ」は本当か(酒井健司医師:朝日新聞)
「免疫力」とは「体内に侵入したウィルスや細菌などの病原体や毒素を異物として認識し、生体を防御するためにこれを排除しようとする力」のことで、リンパ球の数や比率、毛細血管からのリンパ球の遊走能で評価しているようです(引用文献は一切明示されておりませんが、こんな簡単な測定方法でいいものでしょうか。免疫システムは非常に複雑です。その学習のために苦労した学生時代の日々が嘘のようです)。
「免疫力」という言葉を、抗血栓薬のことを「血液サラサラの薬」と呼ぶように、一般の方の理解が進むように使用する分には良いのですが、「免疫力」が30~40%低下するとか5~6倍になるというためには、「その測定方法が予め確立されている必要があります」。確かに「低体温」は身体に良くないような気もしますし、そのための体温を上げる方法論(食事や運動、服装、入浴などに関する指導内容)に関しても医学的問題があるとは思われませんが、たいした検証もされずに情報が氾濫している現状はいかがなものでしょう。
体温と「免疫力」の関係(すきま医学)
つまり体温を上げれば健康になる「医学的根拠はない」が結論。
逆に体温が低いほうが長生きとする研究もあります。
ここで終わってもいいのですが、いくつか気になったことがあったので、実際の記事を参照しながら見てみます。
代表的な体温を上げて免疫力アップの記事
体温を上げて 免疫力アップ(沢井製薬)
自分の平熱を知っていますか? 健康的な人の平熱は36.5~37.1度。
実は今、36度以下という「低体温」の人が増えているとか。「低体温」は免疫細胞と大きなかかわりがあり、放置するとさまざまな病気やがんまでも発症してしまうことがあるそうです。
実は健康な人でもがん細胞は1日に5000個もできています。その1つでも免疫という監視システムをかいくぐって生き残ると、1個が2個、2個が4個、4個が8個と倍々ゲームのように増えていき、やがてはがんに姿をかえてしまうのです。
健康を維持してくれる免疫力は体温が下がると低下することがわかっています。単純に計算すると、免疫力が30%低下すれば、1日に1500個近くのがん細胞が、免疫システムから見逃されて増殖していく可能性があります。体温が正常に保たれていれば、これらの免疫システムが正常に働いてくれて、健康が保たれているということになります。
体温+1℃で免疫力は5~6倍あがる?!温めて病気予防!(ロート製薬)
体温が1度上がれば免疫力は5~6倍に!
体温はどんな役割を果たし、また冷えは身体にどう影響するのでしょうか。「人間の身体は本来、体温36度5分以上で正常に働くようにできています。体温が1度下がると、エネルギー代謝は12%ダウン。エネルギー代謝とは、食物から摂った栄養を、酵素などの働きで運動や体温維持のための力に変えること。この力が低下すると、老廃物の排出もうまくいかなくなります。痩せにくいことの原因でもあり、さまざまな病気の原因にもなります」
体温が1度下がると、免疫を司る白血球の働きが30%以上もダウン。同じく免疫に関わる腸の働きも低下します。また、ガン細胞は35度で最も増殖する性質があるとされています。そういったことから、低体温は、生活習慣病やアレルギー、うつ、ガンなど、さまざまな病気を引き起こすのだそうです。
「体温を1度上げると、免疫力は一時的に5~6倍アップ。心臓や脾臓など産熱量の多い臓器には、ガンはできないんです。身体を温め、平熱を上げることが健康維持につながります」
ここでは沢井製薬とロート製薬の記事を引用していますが、いずれも体温が低いと「免疫力」が低下し、病気やガンのリスクが生じるとしています。
ここまで明確に書かれると、体温が低く悩んでいる人は危機感をもつことでしょう。
医学的根拠はないのにどうしてここまで書けるのか不思議だったのですが、どうやら仕組み自体の説明はあるようです。
仕組みを解説した記事はあるにはある
体温が低いと「まずい」とする根拠を解説した記事はあります。
【NPJ通信・連載記事】心の免疫・体の免疫/佐藤 義之
実は「遊走試験」という基礎医学における実験があります。これは、毛細血管からリンパ球がどのくらい血管の外へ、即ち細胞組織内に出ていくかをチェックする実験です。
まさに血管の外に出て行くことを「遊走」という表現で言い表しているのですが、体温が1度下がると30?40%血管外へ遊走するリンパ球の数が減少します。
このことから、よく体温が1度下がると免疫力が30数%低下するという言い方をされる訳です。
つまり、体温を理想的な温度に保つことが免疫力を低下させないためには必要であるということになります。
「免疫」という言葉には、何か漠然としたイメージがありますが、分析してみますと、細胞レベルでは「ミトコンドリアの作用」ということになります。
とにかく、体温の低下は免疫力維持に関してはまずいということです。
リンパ球とミトコンドリアの作用の2点から、体温が低いことのリスクを指摘しています。
ただ、僕の手にあまるので偉い人が解説お願いします。
医学的事実がないことの他にも問題が
「体温が上がれば免疫力が上がる」系の記事には、医学的根拠の他にも気になる表現が目に付きます。
この手の記事はほぼ「危機感を煽る+解決策提示」という「よく読まれる」構成になっています。正確さよりも読まれやすさを重視しているように思われます。
沢井製薬の記事では「免疫力が30%低下すれば、1日に1500個近くのがん細胞が、免疫システムから見逃されて増殖していく可能性」があるとしています。
実は健康な人でもがん細胞は1日に5000個もできています。その1つでも免疫という監視システムをかいくぐって生き残ると、1個が2個、2個が4個、4個が8個と倍々ゲームのように増えていき、やがてはがんに姿をかえてしまうのです。
健康を維持してくれる免疫力は体温が下がると低下することがわかっています。単純に計算すると、免疫力が30%低下すれば、1日に1500個近くのがん細胞が、免疫システムから見逃されて増殖していく可能性があります。体温が正常に保たれていれば、これらの免疫システムが正常に働いてくれて、健康が保たれているということになります。
体温を上げて 免疫力アップ(沢井製薬)
これ、「免疫力」が100%なら5,000個がギリギリ撃退できる、というケースでしか当てはまりません。
たとえば「免疫力」が100%で1万個まで撃退できる体質であれば、単純に計算すると「免疫力」が30%減ったところで7,000個まで対処できる。30%下がったところで何ら問題はないのに、正常に働いていないかのように書かれています。
単純化しても閾値があっていいはずなのに、全く考慮されていないってことですね。
ロートの運営するメディア「太陽笑顔fufufu」では免疫力アップのために体を温める食べ物を上げおり、その中で生姜の効能について触れられています。
本当に知ってる? 生姜のチカラ。
冷えを解消する特効薬として有名な生姜。発汗、発熱、殺菌、抗酸化、コレステロール低下などさまざまな効果があると言われています。中でもジンゲロン、ジンゲロール、ショウガオールという辛味成分には、血流をよくして身体を温め、新陳代謝を活発にするのに高い効果があります。葛根湯をはじめとする漢方薬の約70%に生姜が配合され、冷え症の改善などに処方されています。体温+1℃で免疫力は5~6倍あがる?!温めて病気予防!(ロート製薬)
ジンゲロン、ジンゲロール、ショウガオールといった辛味成分が結構を良くする効果があるとしています。
「ジンゲロール」は確かに血行を良くするので体温も上がる…のですが、体温自体を上げるわけではなく、深部体温が奪われる可能性があるようです。
生の生姜のジンゲロールは体の表面を温めるだけ。そのままだと冷えのもと
生の生姜に含まれている成分の1つに『ジンゲロール』というものがあります。生姜の辛味成分の1つがジンゲロール。
このジンゲロールには効能のひとつとして血管を拡張し血行をよくして、体の深部にある熱を手先や足先に運んでくれる働きがあることがわかっています。
しかし、血流が良くなるぶん一時的には温まったように感じますが、体の深部の熱は奪われてしまっており、また気温が低い場合は拡張した血管が冷やされることで逆に体を冷やしてしまう恐れがあるということ。せっかく体を温めようとしているのに、これでは全く意味がありませんね。
ちょっと待った!その生姜、本当に体を温めている?(味博士の研究所)
「味博士の研究所」では水分を抜いてショウガオールに変化させることで、体温自体を上げる効果を期待できるとしています。
逆に言えば、生姜自体に体温を上げる効能を期待するには生の水分ありの状態ではだめ。生姜=体温が上がるとするにはかなり微妙です。食べ物の陰陽は調理法でも入れ替わるので、これを摂取すればいい!とは言い切れないはず。
そもそも陰陽五行説に基づく陰陽の分類の科学的根拠が見当たりません。地産地消の昔ならそれなりに意義はあったのかもしれませんが、現代で陰陽分類がどれだけ有効なのか。
これを食べたら体温が上がる下がるといった単純な分類への懐疑です。
中国医学・漢方を否定するつもりはありません。
体温が低いほうが長生きの可能性もある
体温が低いほうが長生きするという研究結果もあります。
低体温では感染症に罹りやすかったり朝起きるのが辛い、冷え性で辛いといった好ましくない症状に見舞われます。そんな人はしっかり身体を動かそう、筋肉をつけよう、3食きちんと食べようといった一般的な健康増進法を行うことで、結果的に「免疫力」も上がるでしょう。
目的は血行を良くすることであって、体温が上がるのは結果論のはず。
そもそも「正常な体温」よりも体温が低く、病気になりやすい体質であればストレスを多く受けているはずです。なのに長生きするのは「正常」よりも低い体温の人。「免疫力」が弱く、しょっちゅう病気になりながら長生きできるものなんですかね。
体温が高い人が「免疫力」が高く短命なのは免疫力過剰も考えられますが、「体温上げて免疫力アップ」の記事にはそうは書かれていません。
体温が高い人ほど短命だとすれば原因は活性酸素でしょう。体温が高ければ高いほど細胞は活発になりますが、活性酸素も多く発生します。となれば体温が高い人には抗酸化作用のある食べ物を進めるべきでしょうね。何度以上を「正常でない」体温とするのかは知りませんが。
医薬系企業も根拠のない「免疫力記事」 医師の発言、確認せず鵜呑み(Withnews)
「体温上げて万病予防」は、間違った発想だ(東洋経済)
平熱が低いほうがむしろ長生き?(朝日新聞)
平熱「35度」台と「36度」台、長生きするのはこっちだ(週刊現代)
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