ふるさと納税の問題点 ひっかかりを覚えても言葉にしづらい人向け

雑学、雑感

日本 故郷 ふるさと いなか

「2,000円で地元の特産品がもらえる」ということで人気を博しているふるさと納税ですが、総務省が返礼品の上限を3割にふるよう通達を出すなど、見直しの機運も高まっています。

ふるさと納税は「お得」ということで利用するメリットは多く語られますが、極めていびつな構造になっています。

お礼の品が地元の活力を失わせるといった危惧ににいてはiRONNAが詳しく取り上げられているのでぜひご一読を。

地方をダメにする「ふるさと納税」を正せ! | iRONNA

 

ここではもう少し「仕組み」の抱える問題について考えてみます。

ふるさと納税のメリット・デメリット

ふるさと納税にはメリットは多数あります。

  • 自治体 :国に頼らず税金を集めることができる
  • 地元産業:お礼の品に採用されれば売上が立ち活性化する
  • 利用者 :2,000円で様々な地方の特産品が手に入る(控除限度額まで)

震災や台風などの被害が出た地域への寄付をかんたんにできる仕組みとして活用できる便利な仕組みでもあります。

デメリット

税収が減る自治体が発生する、というのが制度上のデメリットです。

「お礼の品」を用意しない自治体の住民は、魅力的な「お礼の品」を揃えた自治体に「寄付」をする割合が高いため、2,000円を除く地方税が入らなくなります。

そのため東京都の保坂展人世田谷区長は、2016年の世田谷区の歳入が(ふるさと納税の影響で)16億円5342万円減ったと危機感をつのらせています。

2016年度(平成28年度)の影響を見ると、前年に区内で2万4345人がふるさと納税を利用して、43億6388万円の寄附をした結果、27億5553万円の控除額でした。控除額のうち、東京都の都税分が11億211万円で、世田谷区の区税分が16億5342万円です。つまり、区の歳入から16億円5342万円のマイナスが生じたことになります。

http://www.huffingtonpost.jp/nobuto-hosaka/setagaya_b_16963616.html

本来の納税先である地元ではなく、魅力的なお礼の品を用意しているところに税金が流れるというのは当然結果です。

ここにいびつな構造があります。

それは地方交付税の対象自治体ならば、ふるさと納税によって減った歳入の75%が国庫から補填されるということです。75%は賄われるため、実質的な歳入は25%減に抑えられます。

一方の地方交付税で補填されない自治体は人口が比較的多く、他の自治体に税金が流れる可能性がある上にまるまる歳入減となってしまいます。

東京都(+23特別区)をはじめとする歳入減に直面する自治体が危機感を募らせるのは当然です。

デメリットである歳入減に直面する自治体

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地方交付税の対象でない自治体では、ふるさと納税が歳入を直撃します。

前述の保坂世田谷区長は2月に続き6月にもハフィントンポストでふるさと納税について触れています。

そこまで税収減に直面しているのであれば、「世田谷区も返礼品を充実して勝負に出るべきだ」「嘆いている暇があれば、返礼品をそろえる準備をせよ」との厳しい意見もいただきます。ふるさと納税の影響が拡大していく渦中の1年半前から世田谷区で議論してきた結果、「返礼品競争に加わらない。あくまでも、ふるさと納税を利用した寄附を呼びかけ拡げていく」という結論にたどり着きました。都市対地方という不毛の対立構造をつくるべきではないと考えているからです。

ふるさと納税の「競争」が住民へのサービスの充実やその報告ではなく、「お礼の品への」拡充に向かっていることを疑問視していれば、「お得なお礼の品」を用意するのもなかなか難しい。

さらに今後は地元住民への「お礼の品」を送れないため(後述)、寄附者に対する「お得さ」を提供しての歳入減を食い止めるのが難しくなります。

モノで釣ることに抵抗がある、またはそれではまかないきれない自治体では、ふるさと納税という「寄付行為」本来の趣旨に立ち戻って考える必要があります。

つまり

『世田谷区も返礼品を充実して勝負に出るべきだ」「嘆いている暇があれば、返礼品をそろえる準備をせよ」』

は他人事だから言えること。

ふるさと納税のいびつな構造

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ふるさと納税には二つのいびつさが隠れています。

地方交付税交付金で補填されない自治体

地方交付税が不交付の自治体は2017年度では東京都と75市町村となっています。東京都には都道府県としての東京都だけでなく、東京23区も含まれています。

参考地方交付税不交付団体(wikipedia)

これらの自治体は、住民が他の自治体に寄附するだけ歳入が減る構造になっています。

それ以外の自治体は75%までは国庫から補助されるため、軽減されています。

純粋な競争、というわけではない

住民人口の多い自治体に枷

ふるさと納税の趣旨を踏まえ、各地方団体は、当該地方団体の住民に対し返礼品
を送付しないようにすること。

2017年4月1日づけの総務省通知にはこんな文言が含まれています。

地元以外から募る時は3割までのお礼をしてもいい。しかし地元住民には送るな。

ということです。

理屈上は「地元住民は行政サービスという形で寄附の結果が得られるのだから返礼品を送るのはおかしい」となるためです。これは「税金」的な観点からしたら筋が通っています。

これでは地元の自治体に納税する代わりに他の自治体に寄附したら、地元行政のサービスを受けつつおまけがもらえる。しかし地元自治体に納税するとおまけがもらえないという、「いびつ」な構造になってしまいます。

「寄付先が地元自治体だろうが他の自治体だろうが返礼品はなし」にしないと筋が通らない。

本筋にもどって0から考え直さないと是正は無理でしょう。

やらないと「損」をする仕組みは妥当なのか?

  • ふるさと納税を利用する側にとっては税制上メリットがあるからやらないと損
  • 自治体は寄付を募らなければ損

逆をすれば得。

もちろん「自分は損得だけでやってない」という人も大勢いるでしょうが、総務省が通知を出すに至ったのはみながみなそうではないからです。

その他の特定寄附金の対象となる組織に寄附することに熱が入っていないのがその証と言えます。

個人であろうが組織であろうが、自らの得になる方に進むのは当たり前のこと。それを調整するのが政治・行政の役割です。自らが利害当事者となってしまっては調整できなくなってしまいます。

実際、「総務省の方で調整が必要」というふるさと納税の実務に携わっている担当者の声もありました。

「やらなきゃ損」「寄附金ほしければ競争に参加しろ」という声に流されて高額返礼品を用意する代わりに、趣旨に則った妥当なお礼の方針を貫いた首長の決断がきちんと評価されてほしいものです。