図解 ふるさと納税の返礼品(お礼の品)の構造的問題点 解決策はある?
2015年度よりワンストップ特例が導入されて以降、ふるさと納税は「お得」「2,000円でいろんな地域の食べ物がもらえる」ということで人気を博しています。メディアではお得情報が掲載され、検索すればさまざまな地域の特産品が並びます。
そんな人気のふるさと納税ですが、納税額が増えるにつれ問題も表面化するようになりました。
住民税流出が顕著な自治体では歳入減に見舞われ、危機感を募らせています。世田谷区や杉並区では(交付税による75%補填がないため)住民税の流出により「学校や保育園、道路の整備、ごみ処理などに影響が生じる可能性がある」といった広報を行っています。
また、2017年4月には返礼の品(お礼の品)の高額化が問題となり、総務省が3割までという上限を設定するなど具体的な制限を課すに至りました。
なぜ、上からの制限が必要になり、いまになって問題が続出しているのか。
なぜ、高額なお礼の品を用意して納税額を増やすことに熱心な自治体もあれば、モノで釣らない自治体もあるのか。
優れた制度であればすべての自治体が行ってもいいはずなのに、なぜ消極的な自治体があるのか。
自治体ごとに「返礼の品」に対する温度差が生じたのには、いくつかの「明確な」理由があります。
この項ではふるさと納税の抱える構造的な問題から、自治体ごとに温度差が生じている理由を探ります。
ふるさと納税の仕組み
ふるさと納税は「納税」とついていますが、寄附金と同様の扱いになります。寄附金というと馴染みが薄いですが、定められた組織に対して寄附をすると、その分を税額から控除される(寄付金控除)仕組みです。控除額は収入や世帯構成に応じて上限が定められています。
ふるさと納税は都道府県・市町村といった自治体を対象に、一般的な寄附よりも控除上限が高く、確定申告をすることなく税控除を受けられる仕組みになっています。
ワンストップ税制一般に寄附を行って控除を受けるためには確定申告をする必要があります。しかしふるさと納税には5自治体までは確定申告をしなくても控除が受けられるワンストップ税制という制度が導入され、手軽に利用できるようになりました。
ふるさと納税にかかる費用とお得な理由
ふるさと納税の際には実費として自己負担2,000円が必要となります。自己負担金は一度支払うだけでよく、いくつの自治体に寄付しても変わりません。
ふるさと納税をすると「控除上限額」までの寄付は税控除されるため、納税者にとっては住民税の納税先を変えるだけに見えます。
それでいて納税先に選んだ自治体からはお肉や米といったお礼の品(返礼の品)が送られてくる。
自己負担額2,000円でいろいろなものがもらえるので、
「ふるさと納税は」お得
となります。
地元自治体にも「ふるさと納税」による寄付はできますが、返礼の品はもらえません。結果として個人から見ると、よその自治体に寄付するほうが「お得」な構造になっています。
自治体間の差
人口・世帯の平均控除額・利用者人数の違いによって、「ふるさと納税」による歳入減になる地域と歳入増になりやすい地域が生じます。
都市部で世帯収入の多い地域が歳入減になることは、導入時から懸念されていました。
ふるさと納税の利用者数が同じで控除額が異なる2つの自治体だけが存在する場合を考えてみます。
自治体Aは10万円の控除世帯が、自治体Bでは控除額5万円の世帯がお互いの自治体に寄付すると、自治体Bは5万円プラスになります。一方、自治体Aでは移転した5万円が欠損となります。
自治体Aが5万円の歳入減を避けるには、自治体Bのふるさと納税を利用する住民を2倍にする必要があります。
しかし2倍の人に利用してもらうのは現実には難しいので、自治体Aは歳入減となります。
東京のように都市部で控除額の大きい世帯の多い地域が歳入減になるのは当然で、危機感を募らせるのもまた予想されたことでした。
【仮定】すべての自治体が同じ条件で寄附額が均衡した場合
すべての自治体が同じように「納税」獲得のための「競争」をし、すべての自治体の歳入減と寄付額が釣り合った状態を考えてみます。
人口や世帯収入にばらつきがあるため完全に均衡することは現実にはありえない仮定です。実際には都市部からそれ以外の地域への納税が多くなります。しかし理屈上は想定してみましょう。
すべての自治体が同じように寄附金を集めることができた場合、歳入は自己負担額によりプラス2,000円となります。納税先は1自治体でも5自治体でも変わらず発生する2,000円は事務経費と考えると、帳尻は合うように思えます。
しかし「ふるさと納税」では返礼の品(お礼の品)があるために収支はプラスマイナスゼロにはなりません。
たとえば1万円の「ふるさと納税」に対し、納税額の3割をお礼に充てている5自治体に行ったとします。
各自治体には1万円が納税されることになりますが、1万円の3割分、3千円分が目減りすることになります。つまり、歳入増になるのは7千円分。
3割分の価値は納税者の元に戻ることになります。
ふるさと納税による「寄付」が行われると、すべての自治体で実際に使える予算が3割減となり、税収としてはマイナスとなります。
さて、あなたが地元自治体に払った住民税5万円のうち、1万5千円分をお礼として特産品をもらえたら嬉しいですか?
それとも「モノなんかいらないから税金を3万5千円にしてくれ」と思いますか?
返礼の品(お礼の品)を2,000円以内に抑えるとしたら
「うちを選んでくれありがとう」ということで、気持ち程度の粗品と事務手数料合わせて自己負担額の2,000円程度に抑えたとしても、一人が5自治体に納税していれば各自治体から2千円分のお礼の品が届くことになります。つまり1万円-2千円=8千円分のマイナスとなります。
なぜふるさと納税で潤う自治体があるのか
人口と利用者数、控除額の関係で、人口が少なく魅力的なものがある地域ほど納税先に選ばれやすくなっています。もちろん地域ごとに魅力的な特産品を用意し、PRにも努めているからこそ集められています。
しかし寄付金を多く集められる地域が生じる根本的な理由は、「税金獲得競争」に必死になっていない地域があるためです。
悪い言い方をすればやったもの勝ちだからです。もちろん税金獲得に必死になって歳入が増えれば、自治体の予算を増やし、住民サービスを充実させることができます。ですから競争に乗り出すことが「悪い」わけではありません。
しかしすべての自治体が同じように税金獲得競争に参入すればメリットは小さくなります。予算にあてられる額は「お礼の品+事務経費」分目減りすることになります。
「お礼の品+事務経費」分、歳入が減ればどうなるか。その分、住民へのサービスに影響が出ることになります。
ふるさと納税の抱える構造的な問題を懸念している自治体は税金獲得競争への参加を控えているため、競争に参加している自治体が金を集められているのが現状といえます。
現在は「都市部から地方へ」という寄付の流れであるため表面化していませんが、実際には「ゼロサムゲーム」です(自己負担金2,000円を除く)。そして返礼の品のコストを考えるなら「マイナスゲーム」です。
「全ての自治体が収支が合う」のは仮定の話と思われるかもしれませんが、ふるさと納税を利用する人が増えるほど、全自治体の税収はマイナスが大きくなります。
総務省が返礼の品の上限を3割としたことで問題が改善すると思われがちですが、構造的な問題をはらんでいるため解決策とはなりません。
交付税による国庫負担
ふるさと納税は「ゼロサムゲーム」ですが、一部の自治体を除き税収減となった自治体には75%分が交付税で補填されます。
地方交付税の不交付自治体である東京都+23区がふるさと納税に危機感を募らせているのは、交付税による補填が受けられないことも影響しています。
東京都全体でふるさと納税によって歳入が200億円減になったとしても、国庫から75%分150億円が補填されていれば50億円減ですみます。
自治体によって危機感が異なるのは国庫補填の有無も影響しています。
自治体住民からの「ふるさと納税」には返礼の品がない
「ふるさと納税」は、地元の自治体へも行うことができます。しかし地元民の寄付にはお礼の品は送られません(2017年4月の総務省通知)。
地元のサービスをよくしてほしいと願って地元に寄付すると、「損得」で言えば 得できない = 他のお得な返礼品をくれる自治体にしないと 損 となります。
「地元民からの「ふるさと納税」獲得に努力しろ」という批判も散見されますが、納税者の個人の損得勘定では損となるので非常に難しい。流出の多い自治体ほど「モノで釣らず理解を求める」努力が必要になります。
ふるさと納税の本来の意義に立ち返れば有意義な制度
ふるさと納税の「お礼の品」をPRのための費用と考えるのならよい制度です。全国的に名前を知ってもらいたい地元の情報や特産品をPRするためのツールとして活用している自治体もあります。
しかし、ふるさと納税の「寄付金の源泉」を考慮するなら「ふるさと納税」の寄付金とは別で考える必要があります。
上述したように「ふるさと納税」での返礼の品の存在はトータルでは実質的な予算減に働くため、「ふるさと納税」のうち3割を広告費とかわらないため、全自治体の収支としてはマイナスとなります。
返礼の品の高額化が進んだのは寄付金はその自治体にとっては増収にしか見えないためです。
経費がかってもそれ以上に歳入が増えればその自治体は予算が増える。だから多く集めるほうが「得」な構造になっています。
しかし寄付金は「よその自治体の歳入を奪った」もの。つまりその寄付金は、どこかの自治体の痛みを伴うものだということが見えにくくなっています。
「納税先を自分で決める」「お世話になった自治体、あるいは頑張ってほしい自治体への応援」がふるさと納税の導入時の理念です。
「税金の納入先を自分で決められる」「税に対する意識を持ってもらうきっかけになる」というなら、交付金での補填は住民の意思に反します。
地元自治体「より」も他の自治体を応援したいという住民の意思を尊重するなら、歳入減となった自治体はそのまま減収となるのが筋です。
モノであれなんであれ納税先に選ばれるよう努力することをよしとするなら、減収となる自治体は地方交付税不交付団体であっても補填されるのが妥当でしょう。
もともと「税金」と「お得」は相性が悪く、「税金獲得競争」というのは無理があります。
ふるさと納税に邁進する自治体が増えるほど歳入は減るため、解決策はありません。
これからも今の形のふるさと納税を存続させるのなら、「無理」な部分を少しでも改善して、自治体の首長と国民の意識に訴えるほかないでしょう。
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