浜松市の『下水道』コンセッションの分かりやすいまとめ’18
水道民の営化として批判の多いコンセッション方式ですが、実際の運用次第ではなんとかなるんじゃないの?と思うことがあったので、下水ポンプ施設と下水処理場の一部がコンセッション方式で運営されている浜松市の例を紹介します。
下水道コンセッション方式、浜松の例
浜松市の下水ポンプ施設と下水処理場の一部が、運営権を民間に売却するコンセッション方式で2018年4月より運営されています。
運営権を25億円で取得した浜松ウォーターシンフォニー株式会社(HWS)は、2018年度から20年間、浜松市の2つのポンプ施設と1つの浄化施設の運営を行うことになっています。
施設の所有権自体は浜松市にあり、ウォーターシンフォニーはその施設を運用するという枠組み。
- 施設は浜松市のもの
- ウォーターシンフォニーは運営権を25億円で取得
- 運営権の設定された期間は20年
- 浜松市のおよそ半分の下水処理(1日に約14万立方メートル)を担う
- 浜松市は下水処理費用の87億円の削減を見込む
浜松市がコンセッション方式を導入した理由は、下水道の更新にかかる莫大な費用の捻出のため。
極力値上げをすることなく下水道を取り替えるためには、抜本的な費用の削減が必要になり、民間の効率的な運営にその道を見いだしたのです。
市が運営主体の従来の業務委託では、事業の一部を民間に任せるという枠組みになっています。それに対しコンセッション方式では、運営権を獲得した事業者が施設の運営や保全を行うことになります。
運営権を獲得した事業者は施設全体を長期にわたり運用できるため、長いスパンでの投資や運用が行えるメリットがあります。
自治体にとっては効率的な運営を行う民間の力を利用できること。そして施設の運営業務から開放され、適切な運用が行われているかを監視するだけでよくなるという2つのメリットがあります。
コンセッション方式は「民営化」と言われることも多いようですが、PPP(官民連携)の一つの形態です。運営権だけでなく施設の所有権も事業者に渡る民営化とは意味合いが異なります。
施設所有者はあくまで自治体なので、自治体による監督が行われ、職員が事業に入ることもあります。
コンセッション方式は国内の空港や道路ですでに行われていますが、水道施設のコンセッション方式は浜松が国内初となっています。
注意しなければいけないのは、浜松で現在行われているコンセッション方式は下水処理施設の一部のみということ。下水道利用料(使用料)は浜松市が定めており、料金徴収も市が行っています。
浜松市は依然として下水道や施設を管理しているもため、ウォーターシンフォニーは浜松市よりも高いコストを主張することができません。官よりも民のほうが効率が悪いとなれば、コンセッション方式そのものが無意味になってしまいます。
料金徴収を含めて下水道事業全ての運営権をウォーターシンフォニーに渡しているわけではないため、コンセッション方式一般的への危惧は当てはまらないわけです。
浜松市では水道事業もコンセッション方式を活用する計画を立てていることから、現行の下水事業と混同されているケースも見受けられます。
コンセッション方式=民営化?誤解されがちなこと
業務委託とコンセッション方式を混同しているケースを時折見かけます。
施設の運転や設備の維持管理や料金徴収などの上下水道の業務委託はすでに行われてます。外資であるヴェオリア・ジャパンもいくつかの自治体で業務を請け負っています。
これは「民営化」ではありません。
自治体が行うべき施設の運用業務を事業者に委託しているだけで、事業は自治体が行っています。このケースでは、自治体がお金を払って業務を依頼しています。
コンセッション方式は、事業そのものを民間の事業者に渡す方式です。施設は自治体が所有して、運営の権利だけを民間に一定期間渡すため、民営化とも異なります。
- 業務委託 – 自治体が業務を依頼する(運営主体は自治体)
- コンセッション方式 – 施設は自治体が所有し、運営は民間に任せる
- 民営化 – 民間組織にして、施設・資産も含めて譲渡する
大雑把にショッピングセンターに例えるとこんな感じ。
- 業務委託 – ショッピングセンター直営。運営は自社の社員や派遣社員などで行う
- コンセッション方式 – 店舗はテナント料を払った事業者により運営される
- 民営化 – 店舗も運営権も譲渡する
運営委託方式(コンセッション方式)は完全民営化と異なります。完全民営化は、特定の民間事業者に事業主体や資産を完全に移転するもの(例:電電公社からNTT、国鉄からJRの民営化)です。完全民営化では、公益性について、実質的に民間事業者の良心に委ねられるのに対し、運営委託方式(コンセッション方式)では、競争で選ばれた民間事業者との契約によって災害発生時の対応や料金等に関する公益性を確保することができます。なお、完全民営化は、特定の事業者が半永久的に事業を行うのに対して、運営委託方式(コンセッション方式)は、期間を定めて契約に基づき実施されます。
運営委託方式(コンセッション方式) 完全民営化 1.資産保有
資産は公共が保有 民間へ資産を譲渡し、民間が保有 2.公益性の確保
公共が必要だと判断する事項、例えば災害時対応や料金に関する事項を契約に定めて公益性を確保 法令等による規制の他は、民間の判断に委ねられる 3.競争性の確保
一定期間毎に競争で事業者を選定 特定の事業者が半永久的に行う
コンセッションの対象は浜松市の下水処理能力の半分だけ
浜松ウォーターシンフォニー株式会社により、浜松市西遠浄化センターおよび2箇所のポンプ場(浜名中継ポンプ場・阿蔵中継ポンプ場)の3施設がコンセッション方式で運営されています。
西遠浄化センターはもともと静岡県が管理していましたが、市町村の合併により管理区域が市に入ったため平成28年4月1日に浜松市に移管され「浜松市公共下水道」となりました。
浜松市のウェブサイトでは、コンセッション方式で運営される事業は「浜松市公共下水道終末処理場(西遠処理区)運営事業」と表現されています。
西遠処理区の処理量は市全体の5割ほど。残りの5割はこれまでと変わらず浜松市が処理しています。
A 西遠コンセッションを行う民間事業者(運営権者)は、20年間、西遠処理区の使用者から収受する利用料金等を財源に、対象施設の運営を行います。対象施設は、終末処理場(西遠浄化センター)と2つの中継ポンプ場です。一方、市は、運営権者の適切な事業実施へのモニタリングや西遠処理区の管路施設及び他の10の処理区に係る業務を行います。
ウォーターシンフォニーが担っているのは浜松の下水の半分であり、市は依然として下水処理を行っています。現在の方式であれば、市が運用ノウハウ失うことはありません。
料金は浜松市が決め、徴収も行う
下水道料金は浜松市の議会で決められています。そして利用料金の徴収も市が代行しています。
料金は市からウォーターシンフォニーに渡る形になっているので、民間事業者が勝手に値上げすることはできません。
値上げしたくてもできない仕組みになっています。
「水道道利用料金」として請求されているのがウォーターシンフォニーに渡る分です。定められた下水道使用料のうち23.8%が「下水道利用料金」として算出されています。ウォーターシンフォニーの担当していない地域では「下水道利用料金」は発生せず、「下水道使用料」として徴収されています。
上の図では「下水道使用料」が7,130円となっています。
ウォーターシンフォニーの担当する西遠処理区では、このうち23.8%にあたる1,696円(1696.94円)がウォーターシンフォニーに渡り、残りが浜松市の分となります。
- 下水道利用料金は、改正後の浜松市下水道条例第31条の規定に基づき、西遠浄化センター等を運営する民間事業者が、西遠処理区の使用者から徴収するものです。ただし、浜松市が徴収業務の委託を受けますので、従来通り「水道料金」「下水道使用料」と合算して、浜松市へ納付していただきます。お支払いの方法も変わりません。
- 下水道利用料金は、汚水排出量に基づき算出した額(従来の下水道使用料)に利用料金設定割合を乗じた額となります。また、下水道使用料は、算出した額から下水道利用料金を引いた額となります。汚水排出量が同じであれば、お支払いいただく金額はコンセッション方式導入前と変わりません。
外資が入るウォーターシンフォニー
浜松ウォーターシンフォニー株式会社は6社の出資により設立されました。
- ヴェオリア・ジャパン株式会社
- ヴェオリア・ジェネッツ株式会社
- JFEエンジニアリング株式会社
- オリックス株式会社
- 須山建設株式会社
- 東急建設株式会社
そう、外資の「ヴェオリア」が入っているために危機意識を持つ人が多いようです。
ヴェオリア・エンバイロメントについては Wikipedia をちょろっと読んだだけでもあまりいい印象は抱けません。映画監督マイケル・ムーアの故郷、ミシガンのフリントで非常事態宣言が出された「水道の鉛汚染」でも名前が出てくるなど、警戒しないほうがおかしいとも思います。
ただ、ヴェオリアは日本でもすでに業務を請け負っており、外資だからと警戒するのはいまさら感がないわけではありません。
この部分で誤解されているようですが、外資でも国内で委託事業を行っていると言っているだけのことです。利潤を求めるのは外資であろうがなかろうが変わりません。HWSに限れば、ヴェオリアは特別目的会社に出資するうちの一社であり、もしHWSが利潤の追求するとしたらヴェオリアだけの問題ではない。
料金の上限が浜松市によって設定されており、単独で料金を自由にできるケースとは異なります。「浜松の下水処理事業」だけに関していえば、単独で力を持っているわけでもない。
コンセッション方式を批判するなら「外資だから」ではなく、「民間資本」だからにすべきだと筆者は考えています。
この項はコンセッション方式の是非はさておき、浜松市の下水道処理事業の枠組みを説明したものです。水道事業コンセッションネタで批判が出るのは当然ですが、浜松はこういうやり方をしていますよ、と紹介する意図のものです。
施設更新は交付金が使われる
ウォーターシンフォニーは、運営する20年間で約250億円の設備更新費用を見込んでいます。
「国の交付金交付対象となる設備の改築に関して、当社は改築費の10%を負担します」としており、25億円ほどの負担が必要になるようです。
ウォーターシンフォニーの売上見込みは年間約18億円ほどなので、大きな負担となりそうです。
上下水道コンセッションの参考にはならないのでは
浜松の下水道で採用されているコンセション方式は、慎重に行われています。
値上げも勝手には行えません。将来値上げが必要になった時に、ウォーターシンフォニーへの分配がどうなるかという問題はありますが、こればかりはその時になってみないと分からない。
災害時の対応にも危惧が残りますが、最悪でも管理している施設が限られているため、わりとなんとでもなるでしょう。
災害、事故等の発生時については、実施契約や要求水準により運営権者の事前事後の対応を規定しており、運営権者は被害を最小限に抑制する義務があることから、業務継続計画(BCP)を策定し、市と連携して対応します。また、市は下水道関係業界団体や日本下水道事業団と災害協定を結び有事のサポート体制を整えています。
事業規模も大きくはないため、この件をコンセッション方式一般の参考にするのは無理でしょう。
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