微量金属作用、金属のもつ殺菌作用〔気になる言葉〕

2016年11月7日雑学、雑感

銅製ポットケトル

銅は熱の伝わり方がよいため、鍋やヤカンに用いられていますが、それと並んでよく利用されるのがキッチンシンクの排水口のゴミ受けや三角コーナーですよね。

銅製品がカビの生えやすいところに用いられるのは、銅には強い殺菌・除菌効果があるためです。

銅の除菌効果を利用した使い方としては

  • 銅製のシンクバスケット(排水口のゴミ受け)や三角コーナーを使うとヌメリが抑えられる
  • 銅(十円玉)を靴に入れておくと匂いが取れる
  • 手を触れることの多いドアノブを銅製のものにすると感染が抑えられる
  • 池や水たまりに銅を入れてボウフラ避けにする

などがあります。

水分がほとんどないドアノブでも抗菌力を示すのは、ほんのわずかな手の汗に反応した、ごく微量の銅が菌の増殖を抑えているからだと考えられます。
激しい運動をした後でもなければ、手の表面の汗はたかが知れています。そんなごくごくわずかな量でも抗菌力を示す金属の働きを微量金属作用といいます。

「金属作用」という名前の通り、抗菌効果を発揮する金属は銅ばかりではありません。
銀、真鍮を始めとして、白金、金、銅、鉛、水銀、バリウムなどなど多数の金属が微量金属作用をもつことが知られていて、実際に活用もされています。

考えてみると銀イオンの配合されたワキガ用スプレーなど、抗菌アイテムには銀が含まれていることが多いですね。
じつは微量金属作用のある金属は、たくさんあります。

とくに銅が抗菌用として利用されるのは、殺菌作用そのものが強いことに加え、物質としての安定性や、価格の手頃さからのようです。

微量金属作用の発見と原理

金属が強い殺菌効果を示す「微量金属作用」は1893年にスイスの植物学者カール・ネーゲリ(カール・ヴィルヘルム・フォン・ネーゲリ Karl Wilhelm von Nägeli)によって発見されました。

ネーゲリが亡くなったのは1891年。発見されたとされるのが1893年。時期に矛盾がありますが、おそらく研究結果が発表されたのが1893年ということだと思われます。

池に生えたアオミドロ(藻)が枯れているのを見たネーゲリは、その原因が銅であることを突き止めました(当時の技術では検出できないほど微量の銅イオンが犯人であることを、どうやって見抜いたのかは不明)。

 

銅は目に見える植物ばかりでなく、レジオネラ菌やMARS、O-157など、ミクロのレベルの細菌の増殖を抑える効果があるなど、強力な抗菌力があります。

ほんのわずかな量の金属が、なぜこのような強い殺菌力をもつのか。
いくつか説明はあるのですが、これ!という結論は出ていません。

 

例えば日本銅センターでは、サイトにより異なる説明をしています。

銅イオンによる細菌や微生物へのへの毒性

詳しいメカニズムはわかっていませんが、人や動物が中毒症状を起こすのと同じで、細菌や微生物の中に許容量を超えて溜まった銅イオンが、さまざまな酵素の働きを邪魔するようです。

銅がもつ微量金属作用とは何?(Copperbook日本銅センター)

 

一方日本銅センターのサイトでは、OH(ヒドラオキシラジカル)が発生して、その酸化作用が殺菌力に繋がっているとしています。

Cu→Cu+→Cu2+に伴い、H2O→H2O2→OH・+OH-ヒドラオキシラジカルが強い殺菌力を発揮するというのが当該メカニズムとして使われています。

抗菌・殺菌について(日本銅センター)

酸化力というのはあれです、いわゆる活性酸素の悪さの原因です。老化も活性酸素が影響しているとされているため、抗酸化サプリとかが効果あると言われています。

 

それはさておき、片や金属の毒性を原因とし、もう一方は酸化力を理由として挙げています。
どちらも納得できる説明ですから、おそらく両方が補完的に作用するのでしょう。

OH(ヒドロキシラジカル)
殺菌作用のある電子的に不安定な状態の分子。プラズマクラスターでも用いられている。他の物質から電子を奪い取る力が強く、タンパク質などから電子を奪って分子構造を破壊し、自らは安定した分子になる。分子が破壊された微生物はその性質を失う。

 

実際の利用

実際に微量金属作用がどう利用されているのかというと。

抗菌作用を期待した家庭向け銅製品として、台所や風呂などの水回りの器具によく使われています。これは雑菌が繁殖しやすいところでの殺菌に極めて高い効果があるからです。

十円玉を三角コーナーや排水口のキャッチャーに入れておくとヌメリが減るのはすぐに実感できますよね。

また、花瓶などに十円玉を入れておくと水が腐らないので長持ちします。

銅を池や水たまりなど、流れが少ないところに入れておくと、ボウフラや藻が発生しないことが分かっています。この場合は銅もそれなりの量が必要になるので、必要量を計算して用いる必要があります。

銅には毒性があるので、植物や魚類がいる環境での使用には注意が必要です

変わった利用法として銅繊維入りの靴下があります。銅繊維は汗の水分によってイオン化するため、臭いの元となる雑菌を抑えたり水虫を予防できます。

考えてみると汗で反応する銅は水虫対策にはうってつけです。

 

金属臭の理由

金属は基本的に無臭です。10円玉をピカピカにして鼻を近づけても何も臭ってきません。

しかし指などで触ると、とたんに「銅」臭くなる。この現象について説明しているサイトがありました。

どんな反応が起きているのか、しかとは分からぬが、比較的分子量の小さいものが生成するのであろう。そうでなければ臭いにくいはずだ。おそらく、皮脂の中に含まれる脂肪酸の二重結合が切れる反応が起こっているのではないかと思う。

金属は単体でも、酸化物でも触媒になりうるであろう。鉄工所に行くと鉄と切削油との反応で独特の臭いがする。これはどの鉄工所も同じ臭いである。

金属の臭い?(プラグマティックな化学)

皮脂が銅イオンと反応して、あの独特の臭いが発生するというわけです。このあたりのメカニズムが分かると、殺菌作用の原理も分かるかもしれませんね。

 

銅の毒性

銅は体内でエネルギー生成や鉄代謝に利用されるなど、必須栄養素なので通常の摂取では問題にはりません。しかし銅にも毒性はあるため、国により摂取上限も設けられています。

銅の摂取上限
18歳以上の耐容上限量 10mg /日

 

弁当屋の焼きそばで急性銅中毒が発生する事件がありました。これは文字通り銅の過剰摂取になってしまったために起きています。

実はこの店では、普段は小豆を煮るために使っていた銅鍋で、焼きそばを作っていた。
そして、その鍋に入れてはいけないものを入れてしまった。

焼きそばソースは酸性。そして、使用した銅鍋は、長年使用してきたことでたくさんの傷がつき、コーティングがはげ銅がむき出しになってしまっていた。
焼きそばソースを使うことで、銅鍋の表面に銅が溶け出したのだ。

世界仰天ニュース

銅製の調理器具には通常はメッキが施されていますが、日本銅センターではカレーを銅鍋で煮込んでそのままにしておくと酸性度が強いため銅が溶け出すリスクを指摘しています。

酸性の食べ物は多々ありますが、一晩二晩と置くのはカレーくらいのものなので、リスクが表には出にくいのかもしれません
しかしリスクはリスク。銅鍋に酸性の食べ物を放置するのは避けたほうがいい、ということですね。

また東京都の食品安全情報サイト『食品衛生の窓』では、炭酸飲料やスポーツドリンク・果汁の多いジュース・乳酸菌飲料を金属製の水筒などに入れる際には気をつけるよう注意を促しています。

参照食品衛生の窓|東京都

 

原理はわからないけれど間違いなく役に立つ

微量金属作用のはっきりとした原理は分かってはいませんが、銅の抗菌効果は確かにすごいです。

流し台の排水口バスケットに銅製のものを使っていますが、ほんとヌメリ知らず。

毒性の強い重金属、例えば水銀や鉛などは微生物にも効きそうなのは分かりますが、少量の銅にO-157にも対抗できるだけの殺菌効果があるのは不思議な気がしますね。