「なるほど・納得」の意味で使うのは「どうりで」か「どおりで」か
A「あの人高校の頃、ダブルスで地区大会4位だったらしいよ」
B「どうりでうまいわけだ」
「理由が分かって納得できた、腑に落ちた」というの意味の「どうりで」ですが、書くときに「どおりで」か「どうりで」か悩む人が意外といるようです。
「どうりで」は漢字で書くと「道理で」。
漢字を見れば〔どうりで〕が正しいとすぐに納得するものの、しばらくすると忘れてしまうことがあるようです。
名詞としての「道理」なら、理(ことわり)の道(みち)。「それが道理だな」といった名詞としての使い方なら迷うことがないのに、なぜ「どおりで」は迷うのか。
その理由を考えてみました。
はなし言葉と現代仮名遣いの問題
「どおりで」か「どうりで」か迷っている人でも、「道理で」の意味は通じます。もし「どおりで」が通じないなら、間違っていることに気づいているはずです。
つまり発音上は「どおりで」でも問題なく通じていることになります。
その理由は長音だから。
長音(伸ばす記号の音〔ー〕)のルールが内閣告示第一号「現代仮名遣い」で定められています。
5 長音
(1) ア列の長音
ア列の仮名に「あ」を添える。
例 おかあさん おばあさん
(2) イ列の長音
イ列の仮名に「い」を添える。
例 にいさん おじいさん
(3) ウ列の長音
ウ列の仮名に「う」を添える。
例 おさむうございます(寒) くうき(空気) ふうふ(夫婦) うれしゅう存じます きゅうり ぼくじゅう(墨汁) ちゅうもん(注文)
(4) エ列の長音
エ列の仮名に「え」を添える。
例 ねえさん ええ(応答の語)
(5) オ列の長音
オ列の仮名に「う」を添える。
例 おとうさん とうだい(灯台) わこうど(若人) おうむ かおう(買) あそぼう(遊) おはよう(早) おうぎ(扇) ほうる(抛*) とう(塔) よいでしょう はっぴょう(発表) きょう(今日) ちょうちょう(蝶*々)
会話では「おとーさん」であったり「とーだい」であったりするのを、文字にする時には長音の列に合わせてかなを添えているわけです。
だから「道理で」を耳だけで聞けば「どーりで」。音的には「どおり(いつも通りの意味)」と同じなのに、文字にすると別ものになってしまうのだから、分からなくはなりますね。
考えてみると日本語って難しいw
発音の問題
日本語の〔う〕の発音には2種類あるそうです。
- 口を丸めない「ウ」
- 口を丸める「ウ」
「日本語には2つの「ウ」の発音があるという話」に両方の音声があるので、興味があったら見てください。
口を丸めるのは関西に、丸めない話し方は関東が多いそうです。結構違います。関西の方の口を丸めない「う」の方が判別しやすいです。
表記も全く別物です。
- 口を丸めない「ウ」…… ɯ(非円唇母音)
- 口を丸める「ウ」…… u(円唇母音)
同じ「どうりで」を口にしていても、地域によって発音が違う。音だけでは分からないのも当たり前か。
日常的に使っているか
たとえば「とーめいを走ってる」と言っても、ほぼ通じる。しかし「とーめいな水」だと違和感がある。「とーめいを考える」と聞いても「党名を考える」は何か分からない。
同じように、〔う〕であるはずの言葉を〔ー〕と発音しても通じるケースと通じないケースがあります。
「予備校こーし」「窓のこーし」だとすぐに思い浮かぶけれど、「こーしを混同する」だとちょっと分かりにくい。「こーしを育てる」だとなかなか思いつかない。
人によって音を聞いて思い浮かびやすい漢字とそうでないものが違うと思います。これは日常的に使っているものほど思い出しやすく、そうでないものは連想するのに時間がかかります。
でも、〔う〕をはっきり発音してもらえれば「公私を混同する」「子牛を育てる」だと分かる。
ようは日常的に接する言葉かどうか。
「道理で」は、名詞や形容動詞としてはよく使われています。「道理が通らんじゃないか」「それも道理だ」は見かけます。
しかし、副詞的としての「どうりで」は書き言葉として使われることはあまり多くはありません。さらに小説での文頭で用いられる時はたいてい「ひらがな」で表記されるので、よけいに「道理で」が文頭の「どうりで」に結びつかないのでしょうね。
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