チョコを食べるとガムが溶ける理由は油でなく乳化作用かも?その1
ガムを噛んでいる時にチョコレートを食べると、ガムは溶けてなくなってしまいますよね。ガムを含んだままポテトチップスなど油の多いものを食べても、バラバラになってガムとして噛めなくなる。
ガムメーカーでは、チョコレートがガムを溶かすのはチョコレートに含まれる油脂(カカオバター)が、ガムを溶かしてしまうからだと説明しています。
ガムには酢酸ビニールが使われることが多く、酢酸ビニールは油に溶けるので原理的にはもっともです。
こびりついたガムがサラダ油で剥がせることからも、油分がガムを溶かすことは確認できます。だからチョコがガムを溶かすのは、カカオバターが原因とする説明には納得できます。
実験をされているサイトでも油に入れたガムは溶けていました。
それで納得はしていたのですが、目についたのがこのブログ記事。
しばらく前に新聞記事で、
「それはガムは油脂に溶けやすいからです。」と云う説明を見た。何か怪しい。
試しに小さな容器にサラダオイルを入れ、噛んだガムを入れて37 ℃に保った。時々かき混ぜると柔らかくなっている。激しく振ると、半流動状態になった。しかし中味は均一とは言えない状態であった。
今度は口の中でサラダオイルとガムをかき混ぜてみる。やはり、完全に溶けたとは言えない状態だった。チョコレートとガムを同時に噛むと、たちまちガムの形はなくなり、滑らかな状態になる。均一である。口の中は白く見える。すなわち乳化が起きている。やはりチョコレートの成分の乳化剤が働いている。
チョコレートは、油脂と砂糖と乳製品を混和して作る。当然混ざらないので、乳化剤を入れる。乳化剤はたいていレシチンを使用する。このレシチンは大豆油を絞った時に油から分離したものを使用している。チョコレートに限らず、ビスケットのような乳化剤を含む物と食べても溶けてしまう。
チューインガム と チョコレート(プラグマティクな化学)
ガムが油に溶けるといっても、目に見えないレベルまで溶けるわけでもないのは確か。
そこで思い立って実験してみました。
(この記事の続き、パート2もあります)
実験の前の確認
■ガムの原料
ガムの基礎剤(ベース)は人の体温で柔らかくなり、しかも唾液では溶けない素材で作られています。
- 植物性樹脂(チクルなど)
- 酢酸ビニル樹脂
- エステルガム
- ポリイソブチレン
油で溶ける酢酸ビニル樹脂が含まれています。
接着性と柔軟さを持つ合成樹脂
紙容器類のコーティング、布・紙ラベルの接着剤、エマルジョン系接着剤、チューインガムベース、人工芝、サンダルの底材、バスマット、浴室掃除用ブーツ、なわとびなど
酢酸ビニル(Wikipedia)
■チョコレートの原料
- カカオマス
- 砂糖
- ココアバター
- 粉乳
- 乳化剤
乳化剤は水と油を混ぜる性質をもつものを言います。マヨネーズで使われている酢と油がドレッシングのように分離しないのは、原料として利用している卵黄が乳化剤の役割を果たしているためです。
乳化剤は水と油をくっつけるわけではなく、油粒子にとりついて水と油の間を取り持つ働きをしています。
チョコレートで乳化剤が使用される理由は、砂糖の濃度に偏りを出さないるためのようです。
チョコレートでのレシチンの役割は、チョコレートの原料である砂糖に吸着し(砂糖の粒子の表面を覆う)、分子の他端を油脂中(ココアバター)に自由な形で漂わせ、流動性を高めます(下図:左)。これにより、チョコレートの流動性が高くなり(粘度が低くなる)、作業性も良くなります。
というわけで、チョコレートには油脂を含むカカオバター(ココアバター)と乳化剤が入っていることが分かりました。
実験
油と乳化剤別々で溶け具合を観察すればいいわけです。
油はサラダオイルで決まり。
問題は乳化剤。健康食品として売っている大豆レシチンを用いれば早いですが、うちになかった。かといってわざわざ買うのもあれだったので、マヨネーズで代用しました。
マヨネーズにはチョコと同じく油と乳化剤(の卵黄)が入っているので、比較にはいいかもしれないと思ったところもあります。
実験方法
- 噛んだあとのガムを、40度位のお湯に漬けて柔らかくしておく
- ショットグラスに入れたマヨネーズとサラダ油を電子レンジで40度くらいに熱する
- 熱くなりすぎても冷ませばいいので問題なし
- 時間がかかって冷めてしまわないよう、40度くらいのお湯を張った鍋も用意
- 保温したいときはその鍋に入れておく
- かき回す道具はスプーン(かき回したり腹で潰したり)
- かき回す、潰す時間は1分
加熱中のハプニング
マヨネーズが爆ぜて、電子レンジの天井に直撃。そして落ちてきたのが下にべったり。
一部だけが極端に加熱されるからそうなります。ラップしとけばよかったと気づいたのは後の祭り。
実験の経過
■サラダオイル
スプーンの腹でガムをグラスに押しつけてもくっつくことがない。
ひっつかない代わりにばらばらにもなりにくいので、スプーンの側面で細切れにしていく。
ガムが5つくらいに分割できたら勢いよくかきまわす。この間1分ほど。
■マヨネーズ
スプーンの腹でガムをグラスに押し付けると、最初はベタッとくっつく感じ。
しかし腹で押さえつけたりカシャカシャかき回すと、どんどん抵抗が減っていきます。
マヨネーズは不透明なので、1分も経たないうちにどこにあるのか分からなくなる。
形が確認できずガムをかき回せているのか不安だったので、撹拌時間を1分30秒に延長。
マヨの撹拌時間を30秒ほど長くしたので、油もさらに30秒カシャカシャしました。
実験結果
実験結果は、溶け具合ではマヨが圧勝でした。
油は確かに溶けています。触ってもべたつかない。
しかし、小さな塊に分離したものの、溶けきったとは言えない状態です。しっかりと残滓がある。
一方のマヨネーズではガムの塊が消え去っています。
画像では分かりにくいんですが、どこをどう均しても塊が現れない。
マヨの中に完全に溶けてます。
スプーンでどこをいじってもガムの塊が出てこない。
というわけで、ガムは油でも溶けるけど、決定打は乳化剤っぽいという結果となりました。
追加実験
ただ、差がありすぎてピンとこないので、追加実験としてココアでやってみました。用意したのは森永のココア大さじ3杯分(チョコは湯煎が面倒なので避けた)。
結果は全然溶けてない。
見栄えがよくないですが、まるっと残ってスプーンの背にくっついてます。
原理的にはもう少し溶けてもよさそうなものですが、飲料用のココアでは油脂の濃度が足りないのか乳化剤が少ないのか、意味のない追加実験でした。
実験を終えての反省
油はもっと溶けるだろうという予断と、思い立ってすぐ実験にとりかかったことにより準備不足でした。
乳化剤としては卵黄を使えばいいと気がついたのは実験を終えてからのこと。
卵の黄身を使った実験もすぐにできると言えばできるんですが、電子レンジ内で破裂したマヨの汚れを落とすので嫌気がさしてしまって。気が向いたらチョコや卵黄でいずれやってみます(大豆レシチンも買ってくるかも)。
実験は家庭にあるもので簡単にできるし、一般的な説明に疑問を呈するという点からも、子どもの夏休みの自由研究にいいかもしれません。
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