ふるさと納税をやめるべきシンプルな理由 高い徴税コストと不公正な競争原理

2018年11月8日雑学、雑感

日本 故郷 ふるさと いなか

「ふるさと納税」の返礼品三割制限に真っ向から反発する自治体があることには驚くばかり。

総務省が2017年4月に打ち出した返礼品3割制限以後も少なくなく、2018年9月1日時点で246の自治体が制限を無視した返礼品を用意しています(ふるさと納税に係る返礼品の見直し状況についての調査結果|総務省)。

いまだ寄付金の4割、5割の金券を返礼品にしている自治体もあるほど。週末だけ高還元率の返礼品を出すような「行政機関の自覚あるの?」と思うようなケースもいくつかあります。

下の金券は高野町の例。還元率50%のお得な返礼品。

ふるさと納税高野町金券

ふるさと納税高野町金券ふるさと納税高野町金券

 

ふるさと納税の上限を無視する自治体は、制度として好ましくないことは承知で、自分の自治体の利益のためにごねているのだと思っていたのですが…

彼らは本気で現行のふるさと納税が素晴らしい制度と考えているのではないか。そう感じるようになりました。

「ふるさと納税」がダメな理由は多々ありますが、致命的欠陥は次の2点。

  1. 仕組み上、やらなければ損
  2. 納付先に選ばれた自治体には、コスト無しで増えたように見える

もちろん寄付金を集めるためには「宣伝・返礼品・手続き手数料」の費用がかかります。しかし「原価」がないために、費用以外の部分が増えれば歳入が増えることから丸儲けに見えてしまう仕組みになっています。

極端な話をすれば、寄付金を集めるための費用を8割にしても2割は純増になります。

したがって人口の少ない自治体は費用が8割かかろうが全国から寄付を集めたほうが得な構造になっています。

この状態では寄付金集めのためのコスト意識が働かなくなります。

高額な返礼品で釣る行為は無駄な徴税コストをかけているようなものなの。それが分からなくなってしまうのです。

納税者は有権者でもある

本題に入る前にひとつ確認。

納税者であるあなたは、有権者でもあります。

有権者は政策や行政サービスを執り行う市町村長・知事・国会議員を選挙する立場にあります。

あなたにとって適切と思える行政の運営や立法を行う首長や議員を選ぶことを通じて、地元や国政に参加しています。

選んだ市長が無駄遣いと思える施策を続けていたらあなたはどうしますか?
次の選挙ではその人には投票しない、あるいはリコールということもありうるでしょう。

有権者であるあなたは、行政に対する責任も負っているのです。これが前提です。

 

ふるさと納税で得をしているようには見えるが…

電卓・計算機

ふるさと納税は、手数料として2,000円を支払うことで、住民税の控除額分を他の自治体に納税することができる仕組みです。実際には納税ではなく特殊な寄付金控除により、他の自治体に「寄付」する形になります。

他の自治体に「寄付」すれば、御礼の品がもらえる。5万円を寄付しただけであれば2,000円の損になりますが、寄付した自治体からそれ以上の価値のあるお礼の品が届けられる。これがふるさと納税人気の理由。

その結果納税者には「ふるさと納税」は実質的な減税に見えるので得をします。しかし地元自治体の住民税が減ることになるため、地元のサービスは低下する可能性がある。

これは住民にとってのデメリットです。

地方交付税が交付される自治体であれば、控除額の75%が国庫から補填されます。所得税の控除分も合わせれば、より多くの負担が国に発生しています。

国としても損です。

国の負担分は交付金への上乗せと考えられます。適切な分配が行われているのであれば、地方活性化のための費用として気にしなくて構わないでしょう。しかし、国の負担が発生していることは忘れてはいけません。

ふるさと納税で「得」をするのは、寄付先となった自治体と寄付した人です。

個人が得になる制度を利用するのは当然ですが、行政が損得で動くと好ましくない状況が発生します。

ふるさと納税は、行政が損得勘定で行動する誘因が大きく、好ましくない状況を推進する仕組みになっています。

 

やらなければ損な仕組み

現在はふるさと納税を受け付けていない自治体があります。また、総務省の通知に則り3割制限をしている自治体が多いので、3割以上の高額返礼を用意すれば、より多くの寄付が集まります。

返礼品の還元率を高くすれば、どこの自治体でも寄付金は集まります。コストを考えずに寄付を集めるだけなら簡単です。

いいものを「プレゼント」すればいい。

たとえ返礼の品に寄付金額の8割の費用をかけても、2割分は手に入るので、その自治体は得します。

本来はお金を集めるためのコスト(徴税コストや寄付金を募る広告など)意識が働くところですが、人口の少ない自治体にとっては濡れ手に泡にしか見えない制度なので際限がなくなります。

結果として寄付金集めに躍起にならない自治体は、自動的に損をしてしまう構造になっています。

「やらなきゃ損をするならおまえのとこもやればいいじゃないか」という人がいます。

もっともです。

すべての自治体は返礼品を用意して、寄付金集めをがんばりましょう。ろくでもない結果になるけれど、「民意」ならかまいませんよね?

 

返礼品3割制限なしの完全競争になったら

返礼品を充実させる(還元率などと呼ばれます)ことで寄付金が集まっている自治体は、ようは価格競争で優位に立っている状態にあります。

話を分かりやすくすくするために、全ての自治体が金券による還元を行ったとします。

事務経費は仮に一割として考えます。

返礼品として5割の金券を送る自治体が現れれば、4割の自治体には誰も寄付などしないでしょう。

ある自治体を損得勘定抜きで応援したいという人はいるかもしれませんがごく僅か。もっともそんな奇特な人なら返礼品なくても寄付してくれます。

現在ふるさと納税の寄付金額が多い自治体は、他の自治体が返礼品の額を控えているから集められているに過ぎません。

還元率を5割、手数料(ここでは一割とする)込みで6割が経費としてかかっても、寄付金額の4割も入ればその自治体にとっては「お得」になります。しかしすべての自治体が一律5割にしたらどうなるか。

知名度が高い自治体に多く集まることになり、知名度のない小さな自治体ほど不利になります。

そしてふるさと納税総額の4割しか自治体に入らないという結果になる。

「価格競争はだめだ!( ー`дー´)キリッ」「ものはできるだけ高く売るべきだ」と口にする人はたくさんいるのに、ふるさと納税の価格競争への反対が少ないのは不思議なことです。

さて、価格競争になれば還元率が高い自治体ほど有利になりますが、還元率を上げた分だけ歳入まで減ってしまいます。

多くの寄付金を集めようとすべての自治体が努力をすればするほど、自治体で使える寄付金の総額が減ってしまう。

市場の失敗を是正する役割の行政が、市場の失敗に巻き込まれてしまう。笑うに笑えない話です。

だから返礼品の上限設定は絶対に必要なのです。反発すること自体がおかしな話と言っていい。

総務省も、金券解禁、上限もなしの完全競争にすると言えばいい。上限設定に反対することがどれだけ馬鹿なことか、みんな気づくことでしょう。

仮に反発した自治体が上限3割を守ったとしても、すべての自治体が「集金」目当てに参入すれば、今集められている自治体の寄付金額は確実に減ります。

上限が3割というルールのもとで完全競争になれば、パイの奪い合いになるので競争が激しくなるのは当然ですよね。

 

モノ以外ならいいのか

返礼品でお得感を出して寄付金を集めるのは好ましくない。

しかしうちは通りの整備に充てる。あるいは動物愛護団体への補助金として割り当てている。だからふるさと納税の趣旨に反してはいない。

こんな自治体もあることでしょう。

モノで釣るよりははるかにましですが、微妙な部分もあります。

たとえば焼却炉や下水処理場への寄付は集まりにくい反面、景観整備や分かりやすい福祉への寄付金は集まりやすいことでしょう。

いずれも自治体の役割ですが、集まりやすい寄付項目とそうでないものがあります。

すると集まりやすい事業に寄付金を割り当て、イメージのいいものだけがふるさと納税サイトに並ぶことになります。

これって行政への理解とは逆方向に進んでいませんか?

命名権やご当地ヒーローなど、面白い企画も色々みかけます。

しかしこの手の企画は本質的な行政サービスではなく、面白さでもって他の地域から、住民へのサービスに使われるはずだった税金をぶんどるのはどうなんだという疑問も湧きます。

 

ふるさと納税について有権者として考えよう

日本 故郷 ふるさと いなか

全ての自治体は、国の方針を唯々諾々と受け入れなければいけないなどとは、はぼくも思っていません。反対することに理があるなら、首長の判断で拒否することも必要でしょう。

しかしふるさと納税に関して制限を受け入れないことには理がない。それどころか、コスト意識は働かない、やらなければ損な仕組みのため、徴税コストを高騰させる害しかありません。

税金そのものの意義すら失わせる制度です。

 

返礼品の品目・限度額制限なしの完全競争になれば、全ての自治体が同じ還元率になるでしょう。そうなれば知名度の高い自治体にお金が集まります。

仮にある自治体が1%でも高い還元率を実現できたら、その自治体が一人勝ちできるでしょう。

価格競争をよしとすると、徴税コストが極めて高い仕組みになります。なら普通に減税するほうが事務手数料がない分、はるかに効率で気になります。

だから返礼品の地場産業品制限や3割制限は絶対に必要なことです。

 

さて、これらを踏まえて、ふるさと納税をすると得をする「納税者」の立場でなく、「有権者」として考えてください。

ふるさと納税は効率的な行政の運営に寄与していると思いますか?

徴税コストは抑えられていると思いますか?

公正な制度だと思いますか?ふるさと納税のゆがみをなくすことができると思いますか?

 

「地元の行政サービスが低下しても構わない、よその自治体に寄付したい」という民意を考えれば、地方交付税による75%の交付金の補填もおかしな話です。

個人的にはふるさと納税はなくすべきだと思いますが、それでも続けるならば、

「返礼品なし。各自治体は首長によるお礼の文書をウェブサイトに掲載」

これだけでいいんじゃないですか?