役所で結婚式、欧米でシビルウェディングが一般的な理由
その相手と一生を共にすることを誓う結婚式。
神社の神前結婚式、キリスト教会で行うキリスト教式、お寺での仏式と結婚式の様式はさまざまですが、いずれも信仰の対象を前にして誓う点で、宗教的な意味合いを持っています。
どこの国でも結婚の宗教的側面は形式化しているきらいはあるものの、その宗派の信者しか挙式をしない宗教施設はあるため、やはり信仰と結びついた行事と言えます。
伝統と信仰に基づくこれらの結婚様式に対し、近年ではシビルウェディング(人前結婚式)が増えています。
シビルウェディングは神や御仏ではなく、見守る人たちの前で誓いを立てる結婚式の様式を指します。形式を問わないので自由な進行ができることが特徴です。
昨今では結婚式自体を挙げないカップルもいるため、行政が結婚式を執り行う「届け出挙式」の試みも始まっています。
届け出挙式(届出婚)は婚姻届を出した後、役所の職員による進行で誓いを立てる簡易な結婚式で、欧米では広く行われている結婚式の形態です。宗教に基づかない結婚式なので、分類としてはシビルウェディングとなります。
今年2017年に入ってから、苫小牧市、鈴鹿市、東京都港区、足立区で、テスト的にこの届け出挙式を実施しています(これまでに実施された届け出挙式)。
このうち苫小牧市は4月以降も届け出挙式定期的に募集していて、市民サービスとして定着させるようです。
役所で式を行うシビルウェディングは欧米では広く行われているのに、日本ではなぜこれまでなかったか。その理由は婚姻制度にあります。
欧米でシビルウエディングが一般的な理由
欧米では役所や裁判所で結婚式を済ませることもある、という話を耳にします。これは事実で、結婚式を公的機関で行えるようになっています。行政が宗教によらない結婚式を執り行う場合は、必然的にシビルウェディングとなります。
しかし結婚式位置づけは「欧米」と一口にまとめるのが難しいほど、国によって異なります。
どの国でもおおむね共通しているのは、婚姻届けを提出するだけでは法的には結婚したことにはならないことです。立ち合いの資格のある人の進行で「結婚の誓い」を立てることが法的な婚姻関係成立の条件となっているため、書類を提出しただけでは結婚したと認められません。
「定められた条件での式を行わないと法的には婚姻が認められない」から、役所で結婚式を行えるようになっているわけです。選択肢の一つというより、必要だから用意されているということです。
なじみ深い国の結婚の条件を具体的に見てみましょう。
婚姻にかかわる手続きをする行政施設を役所で統一しています。
アメリカなら郡や市の役所 Clerk’s office や裁判所を指します。
イギリスなら登記所 Register Office (Registry office) となります(戸籍はないので市民籍登録室とでも訳すべきなのかな)。
アメリカ合衆国の婚姻制度
アメリカでは裁判所や役所で式を挙げることも珍しくないと耳にします。
アメリカのシットコム(シチュエーションコメディー)では、早く結婚したいカップルが、司式資格のある判事を探すネタは定番となっています。
アメリカの法律は州によって異なりますが、「結婚許可証」を役所で取得、結婚式の司式者資格のある人の前により「式を挙げ」て「誓いを立てる」点は共通しています。
流れとしては次のようになります。
- 「結婚許可証」(Marriage Licence)を取得
- 「結婚の司式資格のある人」(Marriage officiant, solemniser)による式を挙げる
- 「結婚証明書」(Marriage Certificate)が交付される
アメリカは戸籍がないので、結婚証明書で婚姻関係にあることを保証します。
結婚式の司式の資格は州によって異なりますが、聖職者、判事、自治体職員などに与えられています。そして司式者が結婚式を行ったと署名すると、晴れて結婚したと認められます。
宗教に基づいた結婚式を行う場合
宗教に基づいた結婚式を挙げる場合、その宗教の聖職者が式を執り行います。聖職者には司式の資格が与えられているため、結婚が認められます。
聖職者に司式資格を与えることで、行政は結婚式のありようには関わることなく婚姻が成立するようになっています。
映画でもよく見かけるラスベガスの「ドライブスルー結婚式」というお手軽な方法は、牧師による挙式になります。
シビルウェディングを行う場合
新郎新婦の宗派が異なっていたり、死別でないと再婚が認められない宗派では、宗教に基づく挙式が行えません。この場合に行われるのがシビルウェディングとなります。
会場を用意して人を呼んでの結婚式を挙げる場合は、司式の資格のある人を呼んで式を執り行うことになります。
問題は結婚式を行わないつもりのケースです。
日本なら証人の署名だけもらって婚姻届けを出せば済むところですが、アメリカで婚姻が認められるためには結婚式が必要。
そういう場合でも結婚できるように、裁判所や市の施設で自治体職員や判事の下で結婚式を行えるわけです。証人の同席も求められますが、特に制限はないので必ずしも知人に頼む必要もありません。
結婚式を自分たちで挙げるつもりがなければ自動的にシビルウェディングになるのだから、そりゃあシビルウェディングは珍しくないわけです。
イギリスの婚姻制度
イギリスも行政上の婚姻には結婚式が必要となっています。アメリカと同じく、基本的に結婚許可証が必要となっています。
結婚許可証を登記所(レジスターオフィス)で申請してから28日後(または72日後)に結婚許可が下りて晴れて挙式を行えます。
結婚式をできる施設は定められているため、好きなところで式を挙げるというわけにはいきません。認められた挙式施設はリストが公開されているので、その中から選ぶことになります。
また、資格のある者の進行が結婚式の条件となっています。
つまり結婚式を行う場所は3通りから選ぶことになり、いずれも資格のある人物の進行が必要になります。
- 宗教に基づく場合は教会など(聖職者)
- 登記所(レジスターオフィスの担当者)
- その他の定められた施設(レジスターオフィスの担当者)
結婚式を挙げるつもりがないのであれば、アメリカ同様に役所で簡素なシビルウェディングを行います。
その他の施設であれば、登記所の担当者に出向いて進行してもらうことになります。
イギリス国教会で挙式する場合
イギリス国教会(聖公会、アングリカンチャーチ)で宗教に基づいた結婚式を行う場合は役所への届け出が不要になるケースがあります。
- イギリス国籍の者
- 欧州経済領域(EEA)またはスイス国籍のあるもの
この場合は式を執り行う教会が
日本人であればEEAとは関係がないので、いずれにせよ役所での申請が必要になります。
フランスの結婚はシビルウェディングが必須
フランスも結婚式を婚姻の前提としています。そして政教分離の原則からか、宗教施設での結婚式は行政上は結婚式とは認められていません。
フランスの結婚式は役所で行うものと決まっているわけです。つまり、結婚するならシビルウェディングを避けては通れません。
役所以外で結婚式を挙げても婚姻が認められない、つまり行政が結婚式を行う義務を負っています。そのためきちんとした結婚式を行えるよう、役所には結婚式場となる部屋も用意されています。
宗教に基づく結婚式を行う場合は、役所での結婚式とは別に、自分の所属する宗教施設で挙式を行うことになります。
宗教によらない式を挙げない場合はそのままか、あるいはパーティーの流れになります。
シビルウェディングは確かに欧米では珍しくない
確かにシビルウェディングは欧米では珍しくないと言えます。
しかしその理由は結婚式が必要だからであって、必ずしも個人の選択によるものではありません。
また、宗教的上の結婚は宗派による教義や信仰心が関わるため、自由に選べるものでもありません。
そういった諸々を考えると、日本での結婚式場のチャペルで行う教会風結婚式も「シビルウェディング」の一種ですね。一神教としての「神」の存在を信じていたとしても、教義に基づかないのであればキリスト教とは関係がなく、キリスト教の信仰心もないことになります。
それはそれでいいのですが、日本ではすでに「人前結婚式」は一般的なんじゃない?と思えるんです。
あなたはどうお感じになりますか?
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