ベーシックインカムの具体的なメリットとデメリット

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ベーシックインカム(BI)のメリット

ベーシックインカムのメリットは、前述した所得の再分配最低限の生活保障にあります。では、この二つのもたらす具体的な効果はどんなものになるか考えてみます。

将来不安を減らす

BI導入のもっとも大きなメリットは将来不安減らすことができる点です。

日本は少子高齢化が確定していて、経済成長も鈍い現在は不安の時代と言えます。

右肩上がりの頃なら「頑張っていればなんとかなる」とも考えられましたが、少子化の流れがはっきりしている現在、そんなことを口にすれば楽天的と思われることでしょう。

生活が厳しくなる恐れがあれば、消費を控えて貯蓄に回すのは当然のことです。2017年に発表されたデータでは、30代夫婦では消費支出の割合が過去最低となっています。

リストラへの備えとして貯金は必要ですし、賃金が上がりにくいのに子どもの学資や老後のための貯蓄を考えれば、消費を減らすのは当然のことです。

もちろんBIが導入されたとしてもその分を貯蓄に回す家庭も多いでしょうが、将来的にも一定額が保証されていると考えれば、そこまでシビアにはならないはずです(周囲の人の財布の紐が緩むと自分も緩む。今はみんな引き締めているために消費が活性化しないという心理がある)。

少子化対策

子どもが3人ほしくても、経済的不安不安からあきらめている人はいます。経済環境の見通しがある程度明るければなんとかなると考えることもできたでしょうが、今の状況ではむずかしい。共働きであれば、3人の子供を育てるのは非常に厳しい。両親や親戚が近所にいてサポートしてもらえなけば、あきらめる人が多いのは当然です。

共働きならば保育所の問題が生じます。認可保育所に入れず認可外に預けるとなれば、子供の年齢が低いほど負担が大きくなります。出産と育児のために仕事をやめてしまえば認可保育に入りにくくなり、再就職したくてもなかなか難しくなる。

 

産休ならば復帰を急ぎたいため、子供が小さいうちから預ける必要があります。4,5歳になれば保育料も安くなるので、それまでは給料の大半が保育料となってもいいと割り切る人もいますが、それでも二人が精いっぱいとなるでしょう。

ベーシックインカムは子供にも(一定額が)支給されるため、保育料に回してもいいし、子供が小さいうちは家にいてやりつつ、BIは将来の学資に回すという選択もできます。

子育ての選択肢が広がる可能性があります。

景気刺激

所得が一定水準になるとそれほど変わらなくなりますが、所得が低いほど消費性向(所得に対する消費する額の割合)が高くなります。入ってきた金の多くを使うということは景気の刺激になります。

外需で景気がよくなるというのは外需による刺激であって、必ずしも輸出自体が国内景気を左右するわけではありません。外需産業が潤ったとしても国内景気が必ずしもよくならないのは、国内消費が活性化しないことが原因です。

貧困対策

BIは職を失ったり、低賃金の職しか得られなかった場合のセーフティーネットとなります。

低賃金の職に就いている状態で年金や医療費の支出を考えると、生活保護のほうが多いということで、働く意志が薄れる人もいます。

逆に生活に困窮しても保護を受けるのが恥ずかしいという意識から生活保護を受けない人もいます。

BIであればこのねじれを解消することができます。生活保護では、所得が生活保護支給額以下の場合は生活保護分まで補填されます。これでは働いて「自分で稼ぐ」という意味がわからなくなります。しかし、BIならば働いた分はそのまま自分のものになるので、賃金は低くても働く意味は実感できます。

また、所得に関係なく国民全員に支給されるので、生活保護のように「恥ずかしい」という意識を持たずにすみます。

失業保険は勤続年数により期間や額が違ってきますが、BIであれば一律なので、新しい職の見通しが立たなくてもやっていけると考えられます。

つまり、生活保護や失業保険といった公的扶助・社会保障を一本化することができるわけです。

新しいことに挑戦・起業がしやすくなる

「失敗しても生きては行ける」というセーフティーネットがあるので、起業がしやすくなります。

これから10年で多くの職種で、AIが人間に取って代わると予測されています(マイケル・A・オズボーン「未来の雇用」)。人が人工知能にとってかわられた業種では失業者が出るか、賃金は下がる可能性があります。

しかし、人がやっていたことが機械に取って代わられる流れは今に始まったことではありません。古くは産業革命の蒸気機関に始まり、20世紀初頭には自動車が馬車に取って変わっています。だからといって人間が不要になったわけではなく、むしろ富は増え、新たな産業と職種を生み出してきています。

これまでの歴史を鑑みると機械の導入は経済に好影響を与えています。だから悲観する必要はありませんが、AIの進化はこれまでになく早い変化で、かつ適応範囲が広いため、雇用が減るか賃金上昇が抑えられる可能性は高いと思われます。

こういった状況では新たな産業やサービスが必要になります。そのためには新しい分野に挑戦する人が必要になります。

BIというセーフティーネットがあれば、商売で失敗して無一文になってもなんとかなる、という言葉に説得力が生じます。

ブラック企業が淘汰される

資本主義において、ルールにのっとっていては収益が上げられない会社はつぶれることが前提になっています。

ルール違反をする企業の何が問題かというと、法令を順守しようとしているライバル企業が一方的に不利になってしまうことにあります。同業種がルール違反をしている場合の選択肢には、生き残るためにルール違反して真っ向から勝負するか、収益が上げられなくなるかの2択です。

ある程度倒産させてもいいから取り締まるべき、なのですが。現実問題としてブラック企業にも働いている人がいるし、厳しすぎれば零細企業は立ち行かなくなってしまします。

BIがあれば職を得る会社を選ぶことができますし、ブラックすぎたらやめてもなんとかなります。

雇用と労働の非対称性緩和の効果があると考えていいでしょう。

ベーシックインカム(BI)のデメリット

財源問題

何をするにも先立つものがなければ仕方がありません。というわけで、財源の問題を見てみましょう。

ここでは2017年2月に入手できたデータをもとに考えてみます。

 

平成29年2月1日現在(概算値)

総人口 1億2,683万人

0~14人口   1,573万人 5割6万円 11兆3256億円
15歳以上人口  1億1,110万人 159兆9840億円

 

15歳未満へのベーシックインカム支給額を大人の半分とすると、1573万人÷2=大人約787万人分に相当します。

したがってBI支給対象の日本の総人口は1億1,879万人となります。

 

平成25年度の社会保障費
総額        110.6兆
介護・福祉・その他 21.1兆
医療        36兆

少し古いですが2013年度の社会保障費を参照して、BIに置き換えられる部分を抜き出します。

生活扶助・社会保障のうち、年金生活保護予算雇用保険予算をBIで置き換えるとすると

58兆4,156億円が対象となります。

単純に58兆4,156億円を1億1,879万人でわると、491,775円。月あたり4万円となります。

子供手当のようにさらに削減できるものもありますし、行政の効率化で多少上乗せの余地はあります。しかし、高がしれている。

倍の8万円を支給するならなら58兆4,156億円の増税。スイス案並みの12万円(スイスの物価は日本の2倍と仮定)を目標にするとその倍の116兆8,312億円となります。

4万円では年金も無理、8万円では生活保護には足りない(住宅手当の分もBIに含むなら)。したがってどうしても10万円程度は必要となります。

 

財源問題はBIの最大のネックとなります

必死さがなくなり労働の効率性が下がる

BIがあれば失職しても食っていけると考え、仕事に対する真面目さに欠けるようになるかもしれません。

ある種の必死さが競争を生むことを考えると、社会全体の競争力の低下はありえます。それでもやる気を出させるためには、

高給なりやりがいなりのインセンティブが必要になり、それができない業種は人材の確保に苦労することになります。これはブラック企業を回避できることの裏返しと言えます。

労働意欲が無くなる可能性

生活に足る金額が無条件でもらえるとなれば、働かないことを選択する人が増えるという批判があります。

個人的な考えですが、これはあまり心配しなくていいと思います。

一人12万円であたっとしても、この額ではカツカツです。したがってなんらかの稼ぎは必要になります。そもそも生活保護と違って医療費はかかるため、医療費の免除される生活保護に比べると実質的な減額となります。

夫婦なら24万円で1人よりは楽にはなりますが、年間288万円で働かないという選択をするのは合理的でしょうか?

むしろ結婚して一緒に暮らすほうが得になるため、復職に必死にならなくても生活できるため、晩婚化に歯止めがかかって若いうちに子供を作る気になるかもしれません。

生活保護の医療費の問題

生活保護をBIに置き換えるのはいいのですが、受給者はなんらかの疾患で働くことができず生活保護を受けている可能性があります。

入院が多い人の場合は下手をすると大半が医療費で消える可能性があります。ですから12万円で一律、というのは現実的には難しいと言えます。

ベーシックインカムは一般化するのか

ベーシックインカムの導入には財源の問題が立ちはだかります。

それでもなお導入に前向きな国や自治体が多いのは、所得格差の是正のための直接的な施策が必要だと考えられているためです。

右肩上がりの成長が期待できなくなった先進国では、経済規模に代わり、豊かさという指標が重視されるようになっています。着実な経済成長が期待できるなら問題先送りでいずれなんとか、と楽観的にやりすごせますが、そうでなければ現状からいかに満足度を上げるかという方向を模索することが必要になります。

先行きへの不安や現状への不満を緩和する方向に努力するのは、利害調整のための機関である行政の選択としては合理的です。

 

BI導入で働く意欲が減る、というのはほぼないと考えています。

まず、金額が足りません。これは幸福の心理ですが、お金がない時は欲しいとは思わなかったものでも、金銭的に余裕ができたら手に入れたくなります。

少なくとも普通の家庭にあるものが(金銭的に)手の届く範囲にあれば、一通りそろうまでは欲求は増すので、逆に頑張って働く可能性が高いと思います。

 

逆に資産を持っている人は10万程度では影響をうけません。

「アバウト・ア・ボーイ」という、父親の遺産で定職に就かず優雅に一人で暮らしをしている中年オヤジが主人公のイギリス映画があります。

中年オヤジを演じるのはヒュー・グラント。本当にきままで、女性と付き合っても長続きしない。仕事もしない。そのため出会った女性から無責任な半人前として扱われてしまいます。

紆余曲折がありながらも最終的には自分の生活を見直し、ボランティアとして活動を始めて終幕となります。

映画を持ち出すまでもなく、普通に人と関わるなら定職についていないと、無責任なひとという扱いをされます。資産がいくらあっても、なんらかの社会活動に携わっていないことには辛いのが人の世です。

人にどう思われても平気、何を言われても気にしないという肝の座った人でなければ、働かずにいるのは無理です。腹の座った人はチャンスがあればおそかれ早かれ働かなくなるので、気にする必要はないでしょう。

 

BIついて日本では財源問題や勤労意欲との兼ね合いで語られることが多いですが、むしろ労働観や生存権といった思想的な問題につながっています。

BIの考え方自体は新しいものではなく、源流は18世紀にまでさかのぼります。最大多数の幸福は難しいけれど、最大多数のそこそこの幸福を目指す方法としては昔からあるものです。

 

BI導入の動機は国によってさまざまですが、今後も試験導入される各地の研究によって、効果・問題点・課題が見えてくることでしょう。そしておそらく、北欧から導入に踏み切ると思います。