ベーシックインカムの具体的なメリットとデメリット

2017年3月14日経済・統計,雑学、雑感

木漏れ日

スイスでのベーシックインカム導入は2016年6月に行われた国民投票で否決されましたが、フィンランドでは2017年1月より実験的運用が始まっています。

フィンランドでのベーシックインカム(以下BI)試験は2年間の予定で実施され、対象は失業保険を受け取っている2,000人となっています

BIをを支給されることになった人は、失業保険に加えてBIの560ユーロ(約6万5千円)が無条件に受け取れます。

支給されたお金は就職先が見つかっても見つからなくても2年間は支給されるため、賃金が失業保険やその他社会保障+BIの額を下回ったとしても就職するメリットは残るようになっています。

これだけ聞くとおいしい話ですが、その一方で対象に選ばれた人は受け取りを拒否することはできず、状況を報告する義務を負います。

フィンランドではBIを社会保障一本化の手段と考えているため、(現段階では)本格的な導入をしても新たな財源は必要ないとしています。今回の実験ではBIが無条件に支給されるため、就職口の賃金によっては就職しない、という選択が生じるかどうかを観察することができます。

BIについてはスイスの2016年6月の国民投票では7割以上が反対で先はないと思われがちですが、ヨーロッパではむしろ議論が活発になっているようです。実際にスコットランドやオランダでは、試験的な導入を表明している自治体が出てきています。

自治体レベルの試験導入では地域ごとの事情が反映されてか、高齢者であったり失業者であったりと、それぞれ対象が異なっています。

なぜ、今BIの導入議論が活発になっているんでしょうか?

ベーシックインカム(BI)とは

ベーシックインカム(Basic Income)は基本所得を意味し、無条件で国民が受け取れる最低限の所得を保証するための制度です。

最低限の所得とは最低限の暮らしができるだけの額ということになり、国によって異なります。おおむね生活保護と同レベル、ということになります。

たとえばスイスでは大人に月2500スイスフラン(約27万円)となっていましたが、物価は日本の2倍程度なので、わたしたちの感覚からすると13万~14万円程度となります。

夫婦であれば26~28万円。子どもにも大人の何割かは給付されることになれば、暮らしは十分成り立つ額と言えます。

BIとよく似た概念には「負の所得税」という考え方があります。負の所得税は、所得が一定以上なら多く払い、一定以下の場合は足りない分を支給されるというものです。

負の所得税は申告所得に基づいて算出されるため、申告が正しいかどうかの精査が必要になります。申告時に不正が発生する余地があり、場合によっては調査が必要になるためコストが発生します。

生活保護でも不正受給がニュースで流れることがありますが、これも調査しないと分からないために不正の余地が生じている例と言えます。

 

一方のBIでは無条件で一律に支給されるため、不正の発生する余地がありません。これが社会保障の枠組みとしてBIが公平性とコストが減らせると言われるゆえんです。

BIの目的は最低限の生活保障と富の再分配

BIの目的は、国民に対する最低限の生活保障と所得の再配分の二つの目的があります。

最低限の生活保障

最低限の生活を保証する根拠は憲法にあります。障害年金や生活保護もこの条文に基づいています。

日本国憲法第25条
第1項
すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
第2項
国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

自らが一定額を支払って得る社会保障だけではなく、なんら義務を負わずに受けられる社会福祉(公的扶助)も25条で規定されています。

障害年金や生活保護では行政の裁量の範囲が広いために、同じ条件でも自治体によっては支給されたり、されなかったりが生じます。公平さを追求しようとすれば、人手が必要になりコストが膨らんでしまいます。また、不正の調査の手間もかかります。

BIであれば条件がないため、行政の裁量がなくなり、効率的な生活保障を提供できると考えられています。

所得の再配分

2000年に入ってから、経済のボーダレス化が急速に進み、世界中で格差が広がっています。また、ネットワークと電子化の進展により、雇用・収入は悪化しています(日本の人手不足はミスマッチと経済構造の問題があるのでここでは考えない)。

格差が広がるということは富に偏りが生じているということです。富の極端な偏りは景気には悪影響を及ぼします。どの国でも、中流層が増えた時期に経済は活性化しています。

これは貧富の格差が大きいと言われるアメリカですら例外ではありません。黄金期であった1960年前後のアメリカは、格差がもっとも小さい時代でした(黒人と白人の格差の違いはここでは触れない)。

格差が経済に及ぼす影響についてはOECDの記事をご覧ください。
https://www.oecd.org/els/soc/Focus-Inequality-and-Growth-JPN-2014.pdf

 

そして富が集中した時に経済危機が生じています。1929年の大恐慌、2008年の金融危機、どちらも格差の広がりの末に生じています。

投資家のウォーレン・バフェット氏が富裕層に所得税の強化を提言している理由の一つが、現在もそのままになっている富の集中の是正にあります。

1980年代から現在まで、「富裕層は多くのお金を使うから、そのお金が下に流れて金の流れができる」というトリクルダウンという考え方で、富裕層優遇政策に移行していました。現在ではそれが誤りであったという声が大きくなっています。

(アメリカは消費性向(所得に対する支出の割合)が高いため、富裕層の大きな貯蓄が投資に回るので経済が活性化する、という側面もあるので一概に悪いとは言えない)

高所得者よりも低所得者のほうが収入に対する支出割合が高いのは当然で、消費が増えることになります。