皆既月食では、なぜ月は赤く染まるのか 月食の原理と赤く見える理由
皆既月食ではなぜ月が赤くなるのかを説明してみました。
皆既月食の仕組み
皆既月食の仕組みはメディアでも取り上げられているので、みなさんも目にされていると思います。かんたんにまとめるとこういうことです。
- 太陽の光が反射して明るく見えた月が地球の陰に隠れて暗くなる
- 地球の大気で屈折した赤い色だけが月に届くため赤く染まる
文字だけだといまひとつピンと来ないと思うので、国立天文台の分かりやすい動画を、一度ご覧あれ。
これで仕組みは分かるのですが、いくつか疑問がわきます。
- 赤だけが届くのは夕焼けと同じ原理なのは分かったけど、屈折しなければ赤くはならないの?
- 本影と半影の意味は?
- なぜ真っ暗になってからしか赤くならないのか
順番に考えてみましょう。
皆既月食で月が赤くなる理由と光の屈折の関係
月が赤く見えるのは夕焼けと同じ原理。
光が大気を通過するうちに波長の(相対的に短い)青や緑成分が拡散するため、赤い色が長く生き残って月に到達すると説明されています。
さて、赤が残るのは分かった、屈折するのも分かった。けれど、なぜ赤色の範囲が広がるのではなく狭まるのでしょう。
また、本影と半影ってどういうことでしょうか。
ひかりの性質を把握する
夕焼けが赤く見えるのは、青や緑が拡散しやすく、赤がもっとも遠くまで届くからと説明されます。
逆に昼間の空が青いのは、波長の短い青ほど多く拡散するためと言われます。
その原理を考えてみます。
光の三原色
すべてを合わせると白になる3種の色を「光の三原色」といいます。
太陽の光は3つの原色をすべて含んでいるために白に見えます。
■ 赤(波長: 625 – 740 nm)
■ 緑(波長: 500 – 560 nm)
■ 青(波長: 445 – 485 nm)
赤・緑・青はRGB、テレビやパソコンの液晶パネルで利用されている原色ですね。
3つの原色を足し合わせることで、さまざまな色を表現できるため加法混合と言います。
人間は赤から紫までしか認識できませんが、昆虫や鳥には人間には見えない紫外線を知覚することができるものもいます。
そういった昆虫にしてみれば、3原色では足りないと感じるかもしれませんね。
閑話休題。太陽光は3原色すべてを含み、白く見えます。

赤と緑を足すと黄色に、赤と青を足すとピンク色に見える。夕焼けが赤いのは、緑と青が拡散してしまい、赤い波長だけが残ってわたしたちの目に届くからです。
光そのものではなく、印刷物やペンキなど、光を反射して表現される色は減法混合といいます。「色の三原色」とも呼ばれ、印刷するときの3原色+1の CMYK などは減法混合となります。CMY(シアン・マゼンタ・イエロー) はすべて足し合わせても濃い茶色にしかならないため、黒だけ独立したインクK(黒)で印刷されます。
空が青いのは青が拡散するから
空が青く見えるのは波長の短い青が拡散するから、と言われます。
■ 赤は波長が 625 – 740 nm ■ 青は波長が 445 – 485 nm。
赤の波長は青の1.5倍ほど長いことが分かります。
赤の波長が青の1.5倍ということは、青が赤と同じ直線距離を進むためには1.5倍の周期(道のり)を進まなければなりません。
道のりが長ければ、空気中の粒子にぶつかる回数も増えることになります。
つまり青は赤・緑に比べて地上に到達するまでの道のりが長いため、より多くの粒子にぶつかり拡散されることにまります。
拡散された青は離れたところでチリなどにぶつかって、そこでもまた青色が拡散します。
拡散を繰り返して地上まで達した青色の光が、わたしたちの目に青と写ります。
詩的に表現するなら
チリ・水蒸気・空気の分子で作られた空のキャンバスに、あざやかな青の絵の具を撒いた
そんなイメージです。
………
………
自分でもイタイと思いました。すみません。
ポエミーな表現は置くとして、まとめるとこういうことです。
- 空気中にある粒子によって、私たちの目に直接届くはずの青色成分は空いっぱいにばらまかれている
- ばらまかれた青は大気中にただよう粒子に反射して地上に降り注ぐ
- 私たちはチリに映った青色の光を空の色として認識している
もちろん青以外の成分も拡散されています。ただ、相対的に量が少ないのです。
ウェザーニューズの皆既月食のライブでやっていましたが、夕焼けはペットボトルで再現できるようです。
- 大きいペットボトル(2L)に水を入れる
- 床用ワックスを入れて混ぜる
- 白くなった状態で、横や底から光を当てる
すると水を通る間に光が拡散するため、見る位置によって緑に見えたり赤に見えたりするというもの。
牛乳でも代用可能とのこと。牛乳だと微妙ですができますね。
さて、地上に届く太陽光線から青成分が減っているなら、私たちが太陽のひかりと認識しているものに含まれる青が少なくなっているんじゃないか?という疑問が生まれますね。
そうです、青が減っています。
ひかりの三原色の赤緑青のうち青が少なく、赤緑が多く残っているとどうなるでしょうか?

ひかりの三原色の緑と赤の重なった場所をみると、黄色になっていますね。
太陽光線は白のはずなのに、天中にある太陽は黄色として表現表現されることが多いのは、これが理由でしょう。
色の見え方は感覚と認識が影響するため一概には言えませんが、太陽光線は白です。白く見えないなら、何らかの理由で色が減っている、ということになります。
- 明け方の空が青みがかっているのは赤と緑が拡散せず、青だけが大気で反射(拡散)して私たちの目に映るため
- 日の出と日の入り直前の太陽が赤いのは、地平線から自分の場所までの大気が多く、緑と青が途中で拡散して届かないため
- 天中の太陽が黄色っぽく見えるのは青成分が減ってるから
- 空が青いのは青色が空の微粒子で拡散され、拡散されたものが地上にまで届くから
ちょっと込み入りましたが、太陽の光は条件によって違った色に見えるということですね。
そして本題の屈折についてです。
皆既月食中の月から地球はどう見えるか
光が大気を通過する距離が長ければ長いほど赤く見えるのは、赤以外の光の要素である緑と青が拡散されてしまうからですね。
緑と青は、もっと手前にいる人たちの目には映りますが、遠くにいる人には届かないわけです。
さて、地上よりもさらに遠くにある皆既月食中の月からみると、地球はどう見えるでしょうか。

右の写真は2009年に月周回衛星「かぐや」によって撮影されたもの。
左は合成で、皆既月食中の月にいる人には地球はこう映るというイメージ図です。
月面の人が皆既月食中の地球を眺めると、金環食のように見えているはずです。
月から地球の大気が夕焼けのように赤く見えるなら、月の表面は赤く染まっていることになります。
月面ではその色が反射して地球からも観察できることになります。
原理としては「月が赤く見えるのは太陽からの光が地球の大気で屈折して月に届くから」が正しいのでしょう。
しかしイメージ的には「地球の大気に反射した太陽の光が月に届く」と言うほうが分かりやすいですね。
大気で反射していると考えると、その先が内向きになるのはごく自然なことです。
大気に反射した太陽光は内向きに折れて月に向かい、そうでないものは半影の一部となる。
と、こんな説明でイメージとしては理解できました?
説得力が今一つない気もしますが、筆者は月からみた地球の画像で納得したので、読んでくれてる人も納得したこととして話を進めます。
ちなみに大気中のチリが多いとより赤くなり、少ないと黄色みが強くなるそうです。
火山の噴火などで大気中のチリが増えるとより赤く見えるのだとか。
水が青く見える理由
余談になりますが、水が青く見えるのは空の青とは原因が異なります。
赤の波長は水(H2O)に吸収されます。水に入った光は進むうちに赤色が減り、結果として青と緑が残るんですね。
ふたたび光の三原色で確認すると、青と緑が重なる部分の色は、水色です。

水が水色なのは当たり前ですが、赤だけが減って青と緑が残ることで文字通りの水色になっているわけです。
水中を進むうちに赤が減り、ひかりが底に届くと水色として反射します。その水色は再び水の中を通って私たちの目に届く。
反射後にも赤色が減るため、距離が延びれば伸びるほど(深くなるほど)、水の色は水色に近づくことになります。
このため底の砂が白く、水の透明度が高いほど水色が強くなります。
もちろん水そのものや、プランクトンをはじめとする水中を漂う物質によって光が底に到達できなければ、阻んだものの色が私たちの目に映ります。
半影と本影
月が赤く見える理由は分かったとして、次は半影と本影。
本影
光が点から発しているなら、光を遮られた部分は真っ暗になります。これが本影。
半影
大きさを持った範囲からの光では、ある地点Aからの光を遮って影になっても、Bからの光は遮蔽物にかかることなく素通りすることがあります。
Aからの光は遮れてもBの光はそのままなので、Bの光の分の明るさはあります。これが半影。
文字だけでは分かりにくいですね。図で考えましょう。
太陽から発する光は地球に遮られ、影ができます。空気のない宇宙では光の拡散が起こらず、影になったところは真っ暗になるはず。
しかし上の図ではそうはならず、モノクロのグラデーションがかかっています。
その理由は地球よりも(見かけ上の大きさが)太陽の方が大きく、地球の輪郭よりも外側からきた光を隠しきれないためです。
赤い太線に着目すると、線の上の部分は光が完全に遮られて真っ暗な本影になります。
赤い太線の下は赤い線の光が通っているため、やや明るい半影になります。
赤い太線の下側には緑の太線が通っています。緑の太線のところには、緑だけでなく赤太線の光源からも光が届いています。緑の太線+赤い太線の二つの光があるため、より明るくなっています。
緑の太線の下にある青の太線のところには、緑の太線+赤い太線からの光が通っています。つまり青の太線+緑の太線+赤い太線の3つの光源からの光が通っているため、さらに明るくなっています。
同じ半影でも本影から遠ざかるごとに明るさが増していくため、部分蝕の進行似よって月の明るさは変化します。
まとめると、光源からの光が部分的に遮られてできたのが半影。遮られた光源の範囲によって明るさの差が生じる。
本影に近づけば近づくほど暗くなり、完全に光が遮られた場所が本影になります。
月が半影に入って部分食が進むにつれ、暗さが増すのはそういう理由です。
ちょっと分かりにくいですね。こういう時は実験してみるといいのですが、地上では再現がむずかしいんですよね。
蛍光灯の下に手をかざすと影ができますが、影になったところも真っ暗にはならず普通に字も読める。真っ暗にはならないのです。
その理由は3つあります。
- 壁や床からの反射光
- 水蒸気やチリ・ホコリによる光の拡散
- 光源が面のために、影になる部分が少ない
このような理由で厳密な実験はできないのですが、それっぽい見え方はするので試してみてください。
いまいち分かりにくければ、紙に太陽と地球を書いて、太陽から地球への光の道筋の補助線をたくさん引くと理解しやすくなります。
1月31日の月食の説明画像は国立天文台の皆既月食特集ページより転載しています。
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